ハニートラップ
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残り1週間になった夏休みは、全部高峰くんのお見舞いに宛てた。
全身打撲。左腕は骨折してて全治3ヶ月。
頭も殴られてたから、念の為いろんな検査もしたらしい。
包帯ぐるぐる巻きで、顔も湿布で覆われて。
大人しく白いベッドに寝かされている高峰くんは、綺麗より痛々しいが勝る風貌なのに、とても儚げに見えた。
「高峰くん、そこ。間違ってるよ。」
ベッドの上に設置された机に広げたプリントを、傍から覗きこんで指を差す。
シャーペンを走らせていた手を止めた高峰くんは、うざったそうに眉を顰めた。
「こんなの、埋めときゃいーんだよ。」
高峰くんは、口が悪い。
「ダメだよ。ちゃんとやらないと追試で困るでしょ?」
「真面目だねー。呼水さんは。」
そして結構短気。
拗ねると私を“呼水さん”って呼ぶ。
本当の高峰くんを見つける度、底なし沼にハマっていく。
「真面目とかじゃなくて。
……高峰くんが留年したら、私が困るから。」
高峰くんの目が丸くなって、妙な沈黙。
胸がドギマギする感覚に、きゅっと唇を結ぶ。
高峰くんがいなくなるって思った時に、決めたの。
ちょっとずつでも、素直になろうって。
まだ腫れぼったいきょとん顔を、照れ隠しにちょっと睨んだ。
「そろそろ夕食の時間ですよ。」
半分閉めてたカーテンの向こう側から、いつもの看護師さんの声がする。
「はーい」と明るく返事をして、高峰くんが喋る隙を与える間も無く立ち上がった。