ハニートラップ
「じゃ。課題、進めておいてね。」
何にも言わない高峰くんの手が、シャーペンを転がしてゆっくりと伸びてくる。
「珠桜。」
それから、私を呼んで躊躇いがちに指先をなぞった。
甘えた顔に見せかけた、心配そうな目。
帰る時間の間際になると、襲われかけた恐怖を思い出して手が震え出すのが多分バレている。
(……ずるいな、ほんと。)
触れた先から、キュンと甘い痺れが胸まで届く。
高峰くんは、私の感情を覆うのが上手。
触れ合った先から震えが止まって、その手でひらりとバイバイをした。
「また明日ね、高峰くん。」
そう言えることに笑みを零す。
夕飯の匂いが立ち込め始めた病室を、ちゃんとした足取りで出て行った。