ハニートラップ
――昼休み。
みんなが教室の隅の異端者を気にして、異様な雰囲気に包まれている隣の教室に顔を出す。
「高峰くん!」
私の声で、教室が一瞬ざわついてすぐしん、となる。
異様なものを見る視線が一斉に集まった最後に、高峰くんが私を見た。
さっきまで高峰くんに構っていた俊平は、ハラハラしながら私と高峰くんを交互に見ている。
ガタン、と小さく椅子が鳴る。
それだけで教室の空気が揺れた。
高峰くんが、ゆったりとした足取りで私の元にやってくる。
気怠げで無だった高峰くんの表情が、ふっと柔らかく緩んだ。
私も高峰くんも何も言わない。
周囲も静まり返っている。
そんな息苦しさも受け入れて、並んで一歩、歩き出す。
まだ夏と言っても差し支えのない、残暑の厳しい9月のことだった。


