ハニートラップ
phase:21 齟齬
高峰くんが怒ってる。
一言も会話しないまま、高峰くんの後をついて空き教室に辿り着く。
「先、入って。」
ドアを開けて、高峰くんが冷淡な目で私を見る。
逆らうことは許されない。
鉛みたいに重い足で、一歩、二歩。
ピシャンと閉まったドアの音が、やけに耳に残って心臓を圧迫した。
「…………。」
高峰くんは何も言わない。
私も何も言えない。
でもこの圧に負けてしまうのは釈然としなくて、拳を握って向き合う目に力を込めた。
高峰くんが一歩、距離を詰める。
だから一歩引いて、距離を空ける。
高峰くんの眉がヒクッと痙攣して、それでも平静を保つかのように低く息を吐いた。
拮抗したまましばらく沈黙が続く。
緊張がピークに近づいて、ごくりと唾を飲む。
「ねぇ、」
その僅かな喉の動きを皮切りに、高峰くんが口を開いた。
「二人三脚出るの?――俊平と。」
「……へ?」
意図がわからず、顔に込めた力が緩む。
立っているのもやっとなくらいの圧なのに……
一言目が、それ?
「えっ……と……?」
返す言葉に戸惑って、呑気に視線を彷徨わせる。
チッと小さい舌打ちが聞こえた。
そう思ったら、ふわっと側の埃が舞い上がる。
ぐんと腕を引かれて体が反転して、閉まっているドアに追い詰められた。