ハニートラップ

phase:21 齟齬


高峰くんが怒ってる。

一言も会話しないまま、高峰くんの後をついて空き教室に辿り着く。

「先、入って。」

ドアを開けて、高峰くんが冷淡な目で私を見る。

逆らうことは許されない。
鉛みたいに重い足で、一歩、二歩。

ピシャンと閉まったドアの音が、やけに耳に残って心臓を圧迫した。

「…………。」

高峰くんは何も言わない。
私も何も言えない。

でもこの圧に負けてしまうのは釈然としなくて、拳を握って向き合う目に力を込めた。

高峰くんが一歩、距離を詰める。
だから一歩引いて、距離を空ける。

高峰くんの眉がヒクッと痙攣して、それでも平静を保つかのように低く息を吐いた。


拮抗したまましばらく沈黙が続く。


緊張がピークに近づいて、ごくりと唾を飲む。

「ねぇ、」

その僅かな喉の動きを皮切りに、高峰くんが口を開いた。

「二人三脚出るの?――俊平と。」

「……へ?」

意図がわからず、顔に込めた力が緩む。

立っているのもやっとなくらいの圧なのに……
一言目が、それ?

「えっ……と……?」

返す言葉に戸惑って、呑気に視線を彷徨わせる。

チッと小さい舌打ちが聞こえた。
そう思ったら、ふわっと側の埃が舞い上がる。

ぐんと腕を引かれて体が反転して、閉まっているドアに追い詰められた。

< 72 / 162 >

この作品をシェア

pagetop