ハニートラップ
***
熱狂の体育祭も中盤に差し掛かり、いよいよ男女混合二人三脚の番が来た。
俊平と片足をつなげて、出走待ちの列に並ぶ。
赤い髪に赤いTシャツがものすごくうるさかった。
「この競技定番化してない?私達の中で。」
「な。その後冷やかされるのもセットで。」
「ダルイよなぁ」と俊平は無邪気に笑う。
出番が近づけば体の側面をぴたりと合わせ、ガッチリと腕を回し合う。
半日外で動きっぱなしだったから、汗っぽくてすでに暑い。
毎年ドギマギしてたのに、今年は割と冷静にそう思った。
「そういや珠桜のその2つ結び、久々に見たわ。
中学以来?」
「あー、ね。高校では綺麗なお姉さん目指してたから。」
「なんだよそれ!珠桜には無理だろ。」
「……そだね。」
“やっぱ鈍感”と心の中で皮肉って笑う。
お喋りしてる間に順番が来て、ピストルの合図で走り出す。
私と俊平はぶっちぎりで一着を勝ち取り、例年通り笑顔でハイタッチをした。
――それを、高峰くんは見ている。
水の中に沈んでいくように、静かに。
ずっと、ずっと。
俊平と応援席に戻ると、案の定クラスメイト達に囲まれて冷やかされた。
「さっすが“夫婦”だねぇ。」
「違うわ!」
賑やかに盛り上がる中、突然隣の青軍が騒然とし出す。
ただならぬな雰囲気に、そこにいた全員が人集りに注目した。
その中心から、スッとブロンド髪が頭を出す。
一目でわかる。高峰くんだ。
――何かあったのだろうか?
胸がざわついて目を凝らす。
人混みから高峰くんが抜けた時、見たものに目を疑った。
高峰くんが、千歳ちゃんをおんぶしている。
高峰くんの肩口で項垂れる千歳ちゃんは顔面蒼白。
崩れ落ちそうな華奢な体を、高峰くんの筋張った腕が支えている。
涼しい顔で校舎に向かって歩く姿がスローモーションになって見えて、胸のざわめきが増していく。
隣を見ると、さすがの俊平も呆然としている。
――ふと、高峰くんが一瞬足を止めてこちらに振り返る。
底光する冷たい目が俊平の姿を捉えると、薄い唇が口元がせせら笑うように歪んだ。