ハニートラップ
phase23:陥落
体育祭が明けて、戻った日常は大きく変わる。
「高峰くん、放課後一緒に遊ばない?」
「高峰くん!このあとって――」
高峰くんの周りを、常に派手な女の子達が取り囲む。
千歳ちゃんを助けた高峰くんは、ヒーローになったのだ。
放課後のざわつく教室が、黄色い声で一層賑やかになっている。
その一角を気にしないようにしながら、私は俊平に貸した教科書を取り立てに来ていた。
「すっげーよな。あんだけ怖がってたのに、ゲンキンな奴ら。」
俊平はある意味感心しながら、遠慮なく盛り上がる教室の隅を見学している。
千歳ちゃんと高峰くんが、あんな風になったのに。
千歳ちゃんと何か話したらしい俊平は、次の日の朝にはケロッとしていた。
俊平の視線に釣られて、うっかり高峰くんの方を見てしまう。
「――!」
バチン。高峰くんと目が合って、息が止まった。
「ねぇ、高峰くん……」
女の子が、興奮気味に彼を呼ぶ。
「久哉でいーよ。」
甘い笑顔に、周りにいた子がキャアッと赤くなる。
浮ついた高い声が、すぐに“久哉くん”と呼び名を変える。
(私には、そんなこと言ってくれなかった。)
心が勝手に落ち込んで、眉尻が垂れていく。
「――珠桜?」
教科書を差し出した俊平が、不思議そうに私を見ている。
ハッとして我に返って、教科書を受け取ってその場から逃げ出す。
女の子達を大して見もせず、こっちの様子ばかり伺っていた高峰くんの口元が、妖しく吊り上がっていた。