ハニートラップ
感情のない涼しい顔で教室を出て行こうとする高峰くんの後に、1人の女の子が続く。

その横顔は笑っていて、期待と嬉しさを隠しきれない様子だった。

高峰くんが、教室を出ていく一歩手前で視線を流して私を見る。

ざわっと全身が泡立って、目が離せなくなった。

“――いいの?”

そう言われたみたい。


教室の喧騒も、俊平と千歳ちゃんが私を呼ぶ声も、途端に遠のいた。

鼓動が強く脈打って、だんだんと速くなる。
意識してそこに留めようとした足が、勝手に床を蹴った。


「ごめん!やっぱり今日は遠慮しとく!」

「珠桜?」
「珠桜ちゃん!ダメ!」

――聞こえたけど、聞かなかったことにした。

突き動かされるままに教室を飛び出して、予想通り人の流れに逆行しようとしているブロンド髪の後ろ姿を追いかける。


「高峰くん!」

呼び止めると、高峰くんと隣に並ぶ女の子が振り返る。
私を見る高峰くんの表情は、淡白だった。

緊張して、呼吸が浅い。
呼び止めたまま固まっている私を、女の子が邪険そうに見ている。


その子をあの場所に連れていくの?
私にとって特別な、2人だけのあの教室に。


「行かないで、高峰くん……!」


喉が熱くて泣きそうだ。
眉にクッと力を込めて、なんとか心を保っている。

冷たかった高峰くんの目が優しく細くなって、口元が滑らかに笑みを湛える。

「――いいよ?」

状況についていけていない女の子を置いて、高峰くんが私の方に歩いてくる。

目の前で立ち止まると、その子の方に振り返ってこう言った。

「そういうことだから、今日は帰ってくれる?」

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