ハニートラップ
「――あ、そうだ。
今日来る時、偶然俊平と一緒になってね……」
“俊平”と言った途端、高峰くんの目だけがこっちを向いてひやりとする。続く言葉も喉で詰まった。
怒りの感情が見えたような――気のせい?
「いいよ。続けて?」
“いい”と言った割に冷たいトーン。
頭の中ではぐるぐると地雷原を探している。
何がいけなかったんだろう?
わからないから、ほんの少し息が詰まる。
でも、
“俊平”は禁句。
それだけはわかったから、もう言わない方がいい気がする。
「……ううん!なんでもない。」
「――そ?」
笑顔を作って首を振る。
自分の心に手一杯の私は、高峰くんの冷笑に気づく余裕がなかった。
***
なんてことない会話を重ねて、テキトーな雑居ビルに入った。
ビルの中ももうクリスマス。いつも以上に煌びやかだ。
ファンシーなキャラクターが並ぶ雑貨屋の前を通ると、高峰くんがはた、と足を止めた。
「――ちょっと待ってて。」
そう言ってゴチャついたテナントの中に消えていく。
言われるままに店の前で待っていると、何かを手にして戻ってきた。
「これ、珠桜にあげる。」
私の手を取って、持っていたものをポンと乗せる。
高峰くんの手が離れていくと、眠そうな顔をした黄色いウサギのマスコットが私の手の中にいた。
「これ…!」
驚いてぱっと顔を上げると、高峰くんはゆるりと微笑む。
「珠桜が好きそうかなと思って。」
すごい、なんでわかったんだろう?
驚きと嬉しさで目を輝かせてもらったウサギを眺める。
ソイツの眠そうな目と、高峰くんのやたら色香のある気だるげな伏し目に、既視感。
「――あ、やっぱり!」
高峰くんの顔の横に並べたウサギに、笑顔が溢れてくる。
ぱっと明るくなった私の声に、高峰くんが視線を上げた。
「高峰くんに似てる!可愛い。」
にへら、と笑った私を見つめて、高峰くんは驚いたような顔をして固まった。