愛しい君よ〜俺達の恋〜
玄関で客待ちしていたタクシーをつかまえておいて亜子を待った。




7時少し過ぎたところでようやく聞き慣れたピンヒールの音が聞こえてきた。




玄関ホールのポールにもたれかかった俺を見た後、わざとらしく言う。



「あら、桜井先生、お疲れ様です」



口を尖らせながらも目が笑っている。




嬉しいくせに、女って妙な演技する。




「お前、ちゃんと見てんのかよ」



「えぇ、ずっと監視してましたわよ」




患者じゃなくて、
俺をだろ…。





「川島先生がいるからって遊んでんじゃねーよ」



「ふふ…バレてた?」




川島、とは麻酔科の部長。今日のオペの麻酔医だ。





「だって…今日は『僕に任せてみてて』なんて言うからさぁ、やる気なし。何なの、あの川島…キモいよ」


パープルの鮮やかなストールを首に巻きながら亜子がため息をついた。




確かに前から生理的に受け付けないって言う亜子の気持ちも、
分からなくはない…が。



「お前だけじゃあれ、危うく術中死だぜ、高須先生よ」




待たせていたタクシーに亜子を誘導する。




「だから川島がいてんじゃん、…あ〜あったか〜い」


タクシーに乗り込んだ亜子が巻いたストールを緩めた。






そりゃそうだ。


俺達はいくつもの症例を経験することが大事だ。




今日みたいな些細な患者の状態の変化にも対応出来なければならない。





「南町まで」



まだふてくされる亜子を無視して運転手に行き先を告げた。



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