涙を包むラベンダー(リメイク)
旭山動物園に着くと、彼は入口で車椅子を借りてくれた。

園内はふもとの入口から登っていく地形で、松葉杖で歩き回るのは大変だから、と。


『見て!今、ペンギンが真上を通ったよ!』

逢月姫
「どこどこ?!あ!今度はあっちに泳いでいった!」

動物好きな彼と、ペンギン館の水中トンネルで盛り上がった。

車椅子の背中越しに聞こえる彼の声が、心地よい安心感をくれた。



逢月姫
(彼、私に気づかれないように汗を拭ってる…。)

動物園の奥に近づく頃には、車椅子を押し続ける彼の腕が震えていた。

動物たちを見ている時、彼は後ろ手で腕をマッサージしていた。

私に気を遣わせまいと平静を装う彼が、たまらなく愛しかった。
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