幼馴染のち恋模様【完】
葵の視線の先には瑠奈がいる。
「瑠奈さん。私は、瑠奈さんの口から直接聞きたいです」
ピクッと瑠奈の肩が反応し、顔を少し上げる。
「あなたに話すことは何もないわ」
「ならなんで今日呼んだんだ。話をしないのであれば帰らせてもらう」
思わず口を挟む。葵に対してどうしてそんな態度でいられるのか理解できない。
「瑠奈。約束したはずだ。きちんと自分のした事と向き合うと」
社長は今までにないくらいの厳しい声で瑠奈へ言葉を投げかける。
瑠奈は父親からの叱咤で肩をビクッと揺らすと、歯を食いしばった。
「だって・・・私がちょっと脅しただけで簡単に別れたじゃない。その程度の気持ちってことでしょ?」
瑠奈は俯きながら皮肉めいた言い方をする。
葵は冷静に答えた。
「簡単に、見えましたか?」
葵の真っ暗な瞳が瑠奈を写す。
「たくさんの人が関わって、たくさんの想いが交差して、漸く形になったプロジェクトを潰すという脅しは、ちょっとですか?」
「何が言いたいのよ」
葵は震える手をぎゅっと握り込み気持ちを奮い立たせる。
「プロジェクトにはたくさんの人が関わっています。その中には、あなたが想い焦がれる梗介も、いるんですよ?・・・梗介はこれでもかと言うほど時間をかけて、誰よりも気持ちを傾けていました。その思いや労力を全て無駄にしてしまうところだったんですよ?瑠奈さんは、梗介と一緒に働いていたからこそ、私よりも理解しているのだと思っていました」
「分かってるわよ!」
「分かっていたのなら、他に方法があったはずです」
瑠奈は悔しそうに言葉を詰まらせている。
葵は静かに続けた。
「私だけを傷つけるならまだしも、瑠奈さんは私の上司も巻き込みました。そこまでする必要がありましたか?・・・どうしてあんな風に嘘の情報で後ろ指を差され、名誉を傷つけられなければいけなかったのでしょうか?そこまで、私は瑠奈さんに対して何かしてしまいましたか?」
葵は声を振るわせながらも、戦っていた。
どうにかしてやりたくて、守りたくて、葵の力の入った拳を自身の手で包み込んだ。
葵はピクッと反応した後、こちらを向かないまま拳の力を少し緩めた。そのまま拳を開き、俺の手を握る。
大丈夫、そばにいる・・・と伝えるように俺も握り返した。
「何かしたかですって?したわよ!何も努力せず梗介の隣に居座ってっ・・・私は違う!梗介に釣り合おうと努力した!勉強だけじゃない、メイクもファッションも人脈も!全部自分で手に入れたのに!なのに、梗介はどうして、私を選んでくれないの・・・」
瑠奈は堰を切ったようにメチャクチャなことを言って、ついには泣き出した。
泣きたいのは葵の方だというのに。
「ならば、そのまま梗介に伝えるべきだったのではないですか?嘘をついて誰かを貶めて、そうして手に入ったとして、心から幸せだと言えますか?少なくとも梗介はそんな人に靡かない」
「うるさいっ!黙ってよ!黙って!」
発狂する寸前の瑠奈に警戒を強める。葵に何かしてみろ、こちらも手段は選ばない。
「納得がいかないのであれば今、梗介と向き合ってください。自分の気持ちを素直に、真摯に、梗介に伝えてください。その間、私たちは席を外します」
「葵・・・?」
まさかの展開に葵を見つめる。
「今の瑠奈さんに必要な事だと思う。これが最後。梗介もちゃんと向き合って」
葵は言葉とは裏腹に行ってほしくないという顔をする。葵の中での葛藤が手に取るように分かり今すぐに連れて帰りたかった。
だけど、終わらせないといけない。
「分かった。葵、信じて待ってて」
葵と繋いだ手をもう一度握り、見つめ合う。
大丈夫だから信じていて・・・そんな気持ちを込めて・・・。