幼馴染のち恋模様
ミーティングルームに瑠奈と二人きりになり、沈黙が流れる。
話し出すのを待つが、一向に口を開かないので梗介から口火をきる。
「どうして葵を傷つけた」
「・・・・・・・・」
「どうしてあそこまでされなければいけなかったんだ?」
瑠奈は俯いたまま何も答えない。
「俺が君に対して誠実でなかったことは謝る。俺を恨むのも当たり前だ。でも、葵を巻き込むことは許さない。俺を恨んでいるなら俺に当たればいい」
「違うっ!」
力強く否定する瑠奈の顔には後悔が滲んでいた。
「梗介のこと恨んでなんかいないわ!でも・・・」
そこまで言うと瑠奈はまた黙り込む。
「ならどうして・・・葵は君に何かしたか?自分がしたことの重みは自覚してるのか?」
話が進まないことにもどかしさを覚え、責めるような口調になる。
すると、瑠奈が小さな声で話し始めた。
「誰も・・・私自身を見てくれなかった。社長の娘っていう立場に甘えたくなくて、私自身がすごいんだって認めて欲しくて・・・勉強も、容姿も、人間関係も、全部頑張って手に入れたのに・・・結局は持ってる物しか見てもらえなくなって、私自身を見つけて受け止めてくれる人はいなかった」
何でも持っているように見える人間ほど空っぽだったりする。
それを持たない自分になるのが怖くて手放せない、だけど本当の弱い自分も見つけてほしい。そんな葛藤にいつしか自分を見失う・・・。
「だけどね、梗介は見てくれた。本当の私を見つけて認めてくれた。覚えてる?出会った時のこと」
俺は黙って瑠奈を見据えた。しかし、目は合わない。
俺を見ているようで見ていないその瞳に映すのは、きっと過去の梗介だろう。
「私の作品見てこう言ったの。「死ぬほど向き合ったんだな。何回も作り直しただろ?努力が滲み出てるよ」って、「あんたすごい不器用だろ?」って、笑って言ったの・・・。誰も私の努力なんか見ようともしない。出来て当たり前、出来なかったら勝手に失望される・・・。でも梗介は、影に隠れた私自身を見つけてくれたっ、だから好きになった!」
瑠奈は泣きながら訴える。
「好きなのに・・・梗介の心に、私はいない。付き合っている時もそう・・・私じゃない誰かを苦しそうに見つめてた。悔しかった。振り向いてもらえない人を想うより、初めて会った時みたいに私を見てよ!って」
付き合っていた時の不誠実さが瑠奈を壊したのかもしれない・・・。
「別れてからもずっと梗介のことが忘れられなかった。梗介がお父さんと仕事で会って、相手がいないなら私の婚約者に、なんて言い出したから・・・そうなりたいって願ってしまった。でも、梗介は平然と柚月さんを彼女だって紹介した。この人だって一目で分かったわ・・・そしたら、自分でも止められないくらいの暗い感情に支配されて・・・」
瑠奈は自分でも自分が恐ろしかったというように絶望の表情で手を震わせている。
「婚約は梗介には断られたけど記事を出してしまえばどうにも出来ないと思った。父も母も前向きで、みんなが幸せになれると思ってたのに・・・」
だんだんと瑠奈の声が冷静になっていく。