あなたは狂っている
山本が琴美に1歩、面倒くさそうにため息をつきながら近づいた。
「琴美、大げさだよ」
山本の声が笑っていた。
琴美は山本を睨みつけた。
「私たち、付き合ってたんじゃないんですか?」
「ああ~w」
山本が鼻で笑いながらポケットに手を入れた。
「悪いけど、もう終わり。その顔みたら無理だろ?」
「どういう意味ですか?」
「浮気相手は嫌だって顔してる」
琴美の指が、フェンスを強く掴んだ。
爪が、白くなった。
「当たり前です!何を言ってるんですか!私はそんな話をしているんじゃ」
「だったら何?俺に何って言ってほしいの?」
「何って……」
「謝ってほしいの?」
するとポケットから手を出した山本は「すみませ~ん」とふざけたように頭を下げた。
「これで満足?」
「あなたって!」
「琴美さ、俺のこと好きだった?」
琴美の瞳が揺れた。
「俺は別に好きじゃなかったよ」
「好きだって……言ったじゃないですか……」
「そうだっけ?それはキミが都合のいいように解釈したんじゃない?だいたい、俺、付き合ってとも言ってないし」
山本が笑った。
琴美の唇が震えた。
「正直に言うよ。俺と美咲…あ~石神さんね?とは5年付き合ってた。でもさ~結婚の話が出てさ~最後に誰でもいいから遊びたかっただけなんだよね~」
琴美は唇を噛んだ。
「2股」
「え?ちがうよ~。2股じゃないでしょ?キミはただの遊びなんだから~悪いね」
琴美は山本を睨みつけた。
「琴美も悪いんだよ?」
「はっ」
琴美は思わず笑みがこぼれた。目は怒りに満ちたまま口だけ笑っていた。
「私が悪い?私の何が悪いっていうんですか」
「だってさ、不幸そうな顔して、私を幸せにしてください。幸せにしてくれる人に付いていきますって顔してるから簡単だったもん」
琴美は思わず山本の胸倉を両手で掴んだ。
「お、おいおい。まさか、殴るの?キミってそんな子?」
琴美はパッと離した。
「あんたなんて殴る価値もない」
琴美がそう言うと山本は大笑い。
「じゃあ、コレっきりってことで」
そう言うと山本は屋上のドアへ向かっていった。
扉が閉まる音がした。
扉が閉まると同時に琴美の目から大粒の涙が、溢れた。
ポロポロと。止まらない。
「ああ……」
我慢していた琴美の声が漏れた。
膝から力が抜けた。
地面に手をつき、なんとか体を支えていた。
琴美の涙が次から次へと流れ落ちた。
頬を伝って。
顎を伝って。
地面に落ちる。
ポタ……ポタ……と。
琴美は涙を手で拭うが地面に手のひらが付いていたため、顔に汚れがついた。
「っ……」
そんなこととは知らず、琴美が何度も涙を拭う。
喉の奥から、嗚咽が込み上げてくる。
「うっ……」
琴美は、唇を噛んだ。
涙は止められなかった。
「なんで……こんな……」
琴美が手で拭うのを諦め空を見上げた。
それでも琴美の涙が、ボロボロと落ち続けた。
顔を上げると心の声が叫びとなって表れてしまった。
「私は……ただ!少しだけ……し、幸せになりたかっただけなのにぃぃぃい!」
夕焼けの空が、琴美を照らした。
琴美は背をフェンスに預けるように寄りかかった。
体に力が入らない。
「誰か……誰か……教えてよぉぉお!」
琴美の涙が、止まらない。
琴美は泣き続けた。
肩を震わせて。
その琴美の様子を高みから見つめている男がいた。霧生だ。
琴美の泣き顔が夕日に照らされ霧生からはよく見えた。
霧生の心臓が早鐘を打った。
(美しい……)
これだ。これが、見たかった。
霧生は琴美から目が離せなくなった。
気分が高揚した。
琴美が一人で激しく泣いている。
地面に座り込んで。惨めに。
(惨めで、哀れで……美しい)
霧生は階段を、音をわざと立てて降りた。
琴美がビクッとする。
階段を降りる音が近づいてきて琴美が見る。
霧生が、そこに立っていた。
無表情で琴美を見下ろしている。
琴美は涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、霧生を見た。
「き……霧生副社長……」
霧生は何も言わない。
ただ琴美を見ている。
琴美が慌てて立ち上がろうとする。
でもよろけてしまう。
「あ……」
琴美が再び地面に座り込んだ。
霧生が琴美に近づいてくる。
琴美は恥ずかしさと恐怖で顔を背けた。
「す、すみません……副社長がいらっしゃるとは……」
霧生が琴美の前で立ち止まった。
琴美を上から見下ろしている。
琴美は恐る恐る霧生を見上げた。
赤く腫れた目、涙の跡、頬についた黒い汚れが霧生から見えた。
「だらしない」
「え?」
「みっともない」
琴美が唇を噛んでうつむいた。
涙が、また溢れそうになる。
(そうだよ……私、みっともない……そんなこと言わなくても、わかってる……)
霧生がポケットからブランド物のハンカチを取り出した。
そして琴美の顎をつかんで上を向かせた。
「え……」
霧生が琴美の頬についた汚れをハンカチで優しく拭った。
「す、すみません!」
琴美が逃げようとするが霧生の力の方が強かった。
霧生は黙って汚れを拭き取る。
琴美は霧生を見ることしか出来なかった。
琴美はドキッとしてしまい、顔が熱くなるのがわかった。
拭き終わったのか霧生がハンカチを琴美に渡した。
「持っていけ」
「ありがとうございます……」
霧生が琴美から離れた。
そして、そのままドアに向かっていき、重い扉を開いて出て行った。
琴美は呆然とその背中を見送ることしか出来なかった。
「琴美、大げさだよ」
山本の声が笑っていた。
琴美は山本を睨みつけた。
「私たち、付き合ってたんじゃないんですか?」
「ああ~w」
山本が鼻で笑いながらポケットに手を入れた。
「悪いけど、もう終わり。その顔みたら無理だろ?」
「どういう意味ですか?」
「浮気相手は嫌だって顔してる」
琴美の指が、フェンスを強く掴んだ。
爪が、白くなった。
「当たり前です!何を言ってるんですか!私はそんな話をしているんじゃ」
「だったら何?俺に何って言ってほしいの?」
「何って……」
「謝ってほしいの?」
するとポケットから手を出した山本は「すみませ~ん」とふざけたように頭を下げた。
「これで満足?」
「あなたって!」
「琴美さ、俺のこと好きだった?」
琴美の瞳が揺れた。
「俺は別に好きじゃなかったよ」
「好きだって……言ったじゃないですか……」
「そうだっけ?それはキミが都合のいいように解釈したんじゃない?だいたい、俺、付き合ってとも言ってないし」
山本が笑った。
琴美の唇が震えた。
「正直に言うよ。俺と美咲…あ~石神さんね?とは5年付き合ってた。でもさ~結婚の話が出てさ~最後に誰でもいいから遊びたかっただけなんだよね~」
琴美は唇を噛んだ。
「2股」
「え?ちがうよ~。2股じゃないでしょ?キミはただの遊びなんだから~悪いね」
琴美は山本を睨みつけた。
「琴美も悪いんだよ?」
「はっ」
琴美は思わず笑みがこぼれた。目は怒りに満ちたまま口だけ笑っていた。
「私が悪い?私の何が悪いっていうんですか」
「だってさ、不幸そうな顔して、私を幸せにしてください。幸せにしてくれる人に付いていきますって顔してるから簡単だったもん」
琴美は思わず山本の胸倉を両手で掴んだ。
「お、おいおい。まさか、殴るの?キミってそんな子?」
琴美はパッと離した。
「あんたなんて殴る価値もない」
琴美がそう言うと山本は大笑い。
「じゃあ、コレっきりってことで」
そう言うと山本は屋上のドアへ向かっていった。
扉が閉まる音がした。
扉が閉まると同時に琴美の目から大粒の涙が、溢れた。
ポロポロと。止まらない。
「ああ……」
我慢していた琴美の声が漏れた。
膝から力が抜けた。
地面に手をつき、なんとか体を支えていた。
琴美の涙が次から次へと流れ落ちた。
頬を伝って。
顎を伝って。
地面に落ちる。
ポタ……ポタ……と。
琴美は涙を手で拭うが地面に手のひらが付いていたため、顔に汚れがついた。
「っ……」
そんなこととは知らず、琴美が何度も涙を拭う。
喉の奥から、嗚咽が込み上げてくる。
「うっ……」
琴美は、唇を噛んだ。
涙は止められなかった。
「なんで……こんな……」
琴美が手で拭うのを諦め空を見上げた。
それでも琴美の涙が、ボロボロと落ち続けた。
顔を上げると心の声が叫びとなって表れてしまった。
「私は……ただ!少しだけ……し、幸せになりたかっただけなのにぃぃぃい!」
夕焼けの空が、琴美を照らした。
琴美は背をフェンスに預けるように寄りかかった。
体に力が入らない。
「誰か……誰か……教えてよぉぉお!」
琴美の涙が、止まらない。
琴美は泣き続けた。
肩を震わせて。
その琴美の様子を高みから見つめている男がいた。霧生だ。
琴美の泣き顔が夕日に照らされ霧生からはよく見えた。
霧生の心臓が早鐘を打った。
(美しい……)
これだ。これが、見たかった。
霧生は琴美から目が離せなくなった。
気分が高揚した。
琴美が一人で激しく泣いている。
地面に座り込んで。惨めに。
(惨めで、哀れで……美しい)
霧生は階段を、音をわざと立てて降りた。
琴美がビクッとする。
階段を降りる音が近づいてきて琴美が見る。
霧生が、そこに立っていた。
無表情で琴美を見下ろしている。
琴美は涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、霧生を見た。
「き……霧生副社長……」
霧生は何も言わない。
ただ琴美を見ている。
琴美が慌てて立ち上がろうとする。
でもよろけてしまう。
「あ……」
琴美が再び地面に座り込んだ。
霧生が琴美に近づいてくる。
琴美は恥ずかしさと恐怖で顔を背けた。
「す、すみません……副社長がいらっしゃるとは……」
霧生が琴美の前で立ち止まった。
琴美を上から見下ろしている。
琴美は恐る恐る霧生を見上げた。
赤く腫れた目、涙の跡、頬についた黒い汚れが霧生から見えた。
「だらしない」
「え?」
「みっともない」
琴美が唇を噛んでうつむいた。
涙が、また溢れそうになる。
(そうだよ……私、みっともない……そんなこと言わなくても、わかってる……)
霧生がポケットからブランド物のハンカチを取り出した。
そして琴美の顎をつかんで上を向かせた。
「え……」
霧生が琴美の頬についた汚れをハンカチで優しく拭った。
「す、すみません!」
琴美が逃げようとするが霧生の力の方が強かった。
霧生は黙って汚れを拭き取る。
琴美は霧生を見ることしか出来なかった。
琴美はドキッとしてしまい、顔が熱くなるのがわかった。
拭き終わったのか霧生がハンカチを琴美に渡した。
「持っていけ」
「ありがとうございます……」
霧生が琴美から離れた。
そして、そのままドアに向かっていき、重い扉を開いて出て行った。
琴美は呆然とその背中を見送ることしか出来なかった。