あなたは狂っている
霧生は、副社長室に戻った。
デスクに座り、パソコンを起動する。
社員データベースにアクセス。
『ことみ』と入力すると何人か出てきて、1人の顔写真をクリック。

「中静琴美」

霧生はつぶやいた。
パソコンの画面には琴美の顔写真と情報が表示される。
霧生がその写真を指でなぞる。
ゆっくりとなぞったあと指を画面から離してプロフィールを読み進めた。
年齢、部署、入社年度、学歴、そして家族構成。
「父: 中静誠(町工場経営・現在倒産)」 「母: 中静優子(療養中)」 「弟: 中静陸(私立高校3年生)」
備考欄「※家族の経済的困難により、本人に負担あり」

霧生の片方の唇がわずかに上がった。
琴美は家族の問題を抱えている。
そして今日、恋愛で傷ついた。
今が最も弱っている。

霧生は指を組んで、口元へもっていき、琴美の写真を見つめた。

(あの惨めな顔……もう一度、見たい……いや、もっとたくさん見たい。もっと、苦しむ顔を……もっと、泣く顔を……もっと……)

霧生の目が、細められた。

「中静琴美。君は俺のものになる。そして俺だけのために……泣け」

霧生は冷たく微笑んだ。
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