あなたは狂っている

失恋の痛みに塩を塗る男

あの日から2週間が経っていた。
琴美は毎日を機械的に過ごしていた。
朝、起きる。会社に行く。仕事をする。帰る。寝る。
ただ、それだけ。
友達や同僚たちからの誘いは、全て断った。
心配そうに美憂が琴美の顔を覗き込んだ。

「琴美、最近元気ないよ?」
「大丈夫? 何かあった?」

心配してくれる声に、琴美は無理やり笑顔を作った。

「大丈夫。ちょっと疲れてるだけ」

嘘だった。
山本のことが、頭から離れなかった。

「遊びだった。本気なわけない」

あのあとしつこく電話をしたら、そう言われた。
その言葉が何度も何度も頭の中で繰り返される。
会社で山本を見かけるたびに胸が痛んだ。
山本は琴美を見ても目を逸らす。
そして山本と石神の結婚報告が社内メールで送られてきた。
2人が廊下で笑いながら話しているのも見た。
琴美と山本が付き合っていることを社内で知る人はいなかった。
惨めだった。
< 9 / 10 >

この作品をシェア

pagetop