ねこねこ幼女の愛情ごはん〜異世界でもふもふ達に料理を作ります!〜8
 その晩、エリナは不思議な夢を見た。
 
 丸い耳が可愛い、十七、八歳くらいの白いミンクの少女が、儚げな笑みを浮かべてエリナを見つめている。

(誰だろう。よく知っている人のような気がするんだけど……)

 夢の中のエリナに、少女が呟いた。

『エリナは幸せに暮らしているのかな。辛い思いはしていないかな』

 目を見張り、彼女の名前を呼ぼうとするけれど、声が出ない。名前が思い出せない。エリナは身をよじり、ゆっくりと後退る少女に手を伸ばした。

(待って、行かないで!)

 少女は泣きそうな顔をした。

『そんな、わたしのことがわかるなんて……忘れていいんだよ。もう思い出さないで。だってわたしは……』

(ごめんね、名前が呼べなくてごめんね!)

『わたしは、忘れられていなくてはならないの』

 弱々しく笑い、少女は消えた。
 エリナの胸が激しく痛んだ。彼女はエリナのとても大切な人だと感じたからだ。

(いやだよ、いやだよ、待って、行かないでーっ!)

『忘れてね、エリナ、もう思い出しては駄目だよ……』

 世界は真っ暗になった。




「うにゃああああああああん!」

 突然泣き出したエリナの声に驚いて、フェンリルは目を覚ました。尻尾にくるまっている子猫は、まるで遠くに向かって叫ぶように号泣している。

「エリナ、どうしたのだ? 怖い夢でも見たのか?」

 この小さな子猫は、夜中にうなされることはたびたびあるのだが、こんな魂の奥底から叫ぶように悲痛な泣き方をしたことなどない。

「まさか、どこか痛むのか?」

「うにゃあ、うにゃあ」

 子猫は違うと首を振る。

 彼女が今まで辛い経験をしてきて、魂に傷を負っていることを知っているフェンリルは、その肉球で優しくエリナの背中をさすりながら「ならば、存分に泣くがいい」と鼻先で耳をつついた。

 しばらく泣き続けていた子猫は、やがて睡魔に襲われたのかぱたりと倒れて深い眠りに落ち、朝まで目を覚ますことはなかった。
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