わがままな使い魔のせいで、恋と穴に落ちました・・・という魔女のお話
魔女の国、薬草リキュールの秘密
その晩、アンバーは落馬した悔しさとねんざの痛みで、眠れなかった。
みんなの前で恥をかかされたのだ。
グスタフ皇国の男は、何よりも名誉を重んじる。
眠れない時は・・・父上の書斎にある<あれ>が効く。
ワインやビールよりも強いやつだ。
アンバーは片足を引きずりながら、皇帝の書斎にすべり込んだ。
鍵のありかは知っている。
本棚の3番目の本の中をくりぬいて隠してあるものだ。
アンバーは素早く鍵を取ると、戸棚の鍵を開けた。
皇帝がこっそりと隠してある<あれ>とは・・・
アンバーはガラスの瓶を取りだすと、小さいグラスに注いだ。
トロリとして、ツンとした薬草の匂いが強い、甘みと苦味があるやつだ。
アンバーは一気に飲んだ。
喉が焼けるようにひりつくが、すぐに、薬草の香りで心地よさが引き出され、気持ちが楽になる。
この<薬草リキュール>は、魔女の国の逸品だ。
「くそっ!」
アンバーは毒づきながらも、アルコールの強さに息を吐いた。
ガラスの瓶は細かく表面がカットされて、ろうそくの炎で反射され四方に光の粒が広がる。
それは、クラリスのキラキラ光る金の髪を思い出させた。
「あいつは逃げたんだ・・・!」
最初から競争する気がなかったのが、許せない。
他のみんながこの交流会のために、どれだけ勉強し、準備してきたか。
それぞれが国を背負い、代表としての責任とプレッシャーにつぶされそうになっても頑張って参加しているのに、クラリスは、それを台無しにしたのだ。
「許せない!」
アンバーは熱い息を吐きながら、ガラス瓶を元の場所に戻そうとした。
戸棚には、いくつかの書付が束になって入っていたのだが、瓶とぶつかってばらばらと床に落ちてしまった。
「なんだよぉ・・・!」