わがままな使い魔のせいで、恋と穴に落ちました・・・という魔女のお話

グスタフ皇国・アンバーの使い魔



アンバーは、グスタフ皇国の皇太子である。

黒い髪に赤いメッシュの混じる髪、瞳は父の色を受け継ぎ、温かみのあるヘーゼルの茶色。

身長は高いが、まだ少年らしい葦のような体つきをしている。

あと、1年で成人の儀式を迎える頃には、体も大きくなり1人前にはなるだろう。

父である皇帝はそう思っていた。

そして正式な妃を迎えねばなるまい。

アンバーは、父である皇帝に呼ばれたので、執務室に入るとすぐにひざまずき、頭を垂れた。

「さて、交流会の事だが・・」

皇帝は羽ペンをインク壺に入れてから、鼻眼鏡越しにアンバーを見た。

「はい」

「お前の使い魔を、選ばなくてはならない」

使い魔とは、交流会で参加者のサポート役を務める。

「今年はエルフにしよう」

「えっ?」

アンバーは驚いて、抗議しようとした。

「父上、エルフは・・試合の・・・交流会の戦力にはなりませんが・・」

「そうだ。使い魔に頼りすぎるのはよくない。自分の力でやらねばならないからな」

皇帝は立ち上がると、すぐ後ろの戸棚から、液体が入ったガラスの器を取り出した。

キラキラ光る、美しい水色と緑の入り混じった丸い石が、液体の中に沈んでいる。

「お前に預けよう。エルフの第2の心臓だ」

グスタフ皇国のエルフは、使い魔になると同時に、主人に自分の心臓の一つを奪われる。

エルフはもともと心臓が二つあるから、一つ取られても、活動には問題がない。

しかし、主人が心臓を叩きつぶしたら、その時点で命は絶たれるので、絶対に主人に逆らうことができない。

父上は自分を試しているのか、それとも参加者の前で、恥をかかせるつもりなのか。

しかし、父である皇帝に、拒否は許されないことも理解をしていた。

皇帝は<受け取れ>と言うように、ガラスの器をぐいっとアンバーに差し出した。

「これはミエルだ」

緑と青のマーブル模様の石は宝石のように、光を周囲に放っている。


なぜ、なんで!よりによって、ミエルを父上は選んだのか。

アンバーは憤りを覚えた。

「ありがとうございます」

納得がいかないのか、口元がきつく結ばれている。

そして、一礼すると、ガラスの器を持って退出をした。

皇帝はやれやれと言うように、首を左右に振ると、側近に家庭教師を呼ぶよう命令をした。
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