わがままな使い魔のせいで、恋と穴に落ちました・・・という魔女のお話

皇帝とクラリスの母が出会うこと

<湖のほとり・再会>

数日後、グスタフ皇国の皇帝は、砂ぼこりの街道を、馬で走っていた。

ミエルの心臓の件で、アンバーの話が長くなり、出発が遅れてしまった。

月に1回しかない薬草リキュールを手に入れるチャンスなのに、もうすぐ魔女の国の道が閉じられてしまう。

夕日が山の端に傾くと、完全に閉じられるので、間に合うか・・!

皇帝の目の前に、突然、キラキラ光る湖が現れた。

「湖?・・・道を間違えたか?」

皇帝は馬から降りて、ゆっくりと湖に近づくと、誰かを呼ぶ声が響く。

「クラリス!!どこにいるの?早く来なさい!!道を閉じるわよ」

その声の主は、緑の木々と同じ深い緑のドレスを着て、薄い緑の透き通るベールが、風になびく。

「クラリス!早く!?」

皇帝が、後ろからその人の腕をつかむと、ふりむいた瞳はアメジストの色。

驚きのあまり、大きく見開かれている。

「やっと、会えた・・グランビアの当主殿」

「離してください!・・皇帝陛下」

顔をそむけようとしたその人は、初めて会ったあの時より、ずいぶんと大人だがやはり美しい。

ベール越しに金の髪が光る。

「だめだ。離したら、あなたは消えてしまう」

老婆の姿になったら、もっと困る。

「娘が来るのです・・お願いします・・」

その時、茂みの木々が揺れた。

皇帝の手が一瞬ゆるみ、その隙にエリーゼは素早く体を離した。

「お母さま!ごめんな・・さい?」

木の茂みから、頭には花飾りをつけてクラリスが出て来た。

エリーゼは震える声を押さえて、娘に向かって言った。

「クラリス、グスタフ皇帝陛下にご挨拶を・・」
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