【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
私は旦那様の後ろをついて歩いて別邸から出ると車が停まっていた。
車から運転手さんが出てきて「おはようございます旦那様」とお辞儀をして車の後部座席のドアを開けてくださった。車に乗り込む瞬間、外の空気が新鮮に感じる。久しぶりの外出で、胸が高鳴った。
車に乗り込み、奥様方に見送られて私は久しぶりに屋敷の外に出た。窓から流れる景色を見ながら、心の中で反芻する。
もしかしたら、うまくいけば、幸せになれるかもしれない……でも、そんな期待は持たない方がいい。私の人生は、お嬢様の身代わりなのだから。
敷地を出て一時間ほど車を走らせると、ビルがいっぱい建っているのが見えた。都会の喧騒が近づくにつれ、緊張がピークになる。
「美宙、もう少しで着くから準備しなさい」
「はい。旦那様」
「降りたら私のことは“お父様”と呼ぶように。君は私の娘なのだから」
「そうですね。お、父様……」
私は心の中で『お父様、お父様』と呟いて練習する。粗相がないようにしないと……愛がなかったとはいえ、たくさん不自由のない生活をさせて頂いたんだし役に立たないと。恩返しのつもりで、必死に覚える。
でも、口に出すたび、偽りの家族感が胸を締めつける。この方に、お父様なんて、呼んだことないのに……。