【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
「申し遅れました。私は藤乃穂貴といいます。美宙さん、よろしくお願いします」
「はい。藤乃さん……よろしくお願いします」
穂貴さんの声は穏やかで、優しい響きがある。視線を交わす瞬間、胸がどきっとする。旧華族の血筋を感じさせる端正な顔立ちだ。でも、どこか柔らかな雰囲気。こんな人が、私の婚約相手候補? 心の中で疑問が渦巻いている。
如月家の養女である私が、こんな人に釣り合うはずがないのに……でも、拒否なんてできない。これは私の役割だ。
自己紹介も終わったところで、私たちはこのホテルで人気のケーキセットを注文した。ケーキが来るまでも、奥様はたくさんお話をしてくれて、なんだか箱入り娘って感じのお話だったけど、とても楽しい人なんだということがわかった。
彼女の笑顔を見ていると、羨ましさがこみ上げる。本当の家族に囲まれて育った人って、こんな風に明るく話せるんだろうな。私も、もし本当の娘だったら……そんな妄想が頭をよぎるけど、すぐに振り払う。現実を見ないと。