【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
ケーキもおいしそうだからと半分こをして食べたくらいに仲良くなれた気がする。甘いクリームの味が口に広がるたび、緊張が少しずつ解けていく。こんな贅沢な時間、別邸の小さな部屋では味わえない。心が温かくなるけど、同時に切なくなる。この幸せは、一時的なものかもしれない。
それからケーキが食べ終わりお茶を飲んでまた話が終わると、お見合いのあるあるなセリフの“では、後は若い二人で”というお言葉をいただいてしまった。
だから今は穂貴さんと二人きりだ。部屋の空気が急に変わる。
静かで、緊張感が満ちる。心臓の音が耳に響く。二人きりなんて、経験がない。どう話せばいいんだろう……。
「美宙さん。歩くのは、嫌いじゃないですか?」
「えっ、嫌いではないと思います……?」
「……思います? なぜ過去形なんですか?」
「ず、ずっと引きこもっておりましたので体力がないかもしれないなと思いました。ご迷惑をおかけしてしまうのではないかと思って」
実のところ私は引きこもっていた……いや、閉じ込められていたと言ったほうがいいのかもしれない。心の中で、過去の記憶が蘇る。
中学校までは、引き取られる前だったので普通に通っていた。友達と笑い合って、普通の少女だった。
でも、高校二年の時に如月家に引き取られたため、旦那様に退学させられてしまい通信制の学校に編入して卒業した。
大学も通信制の大学に進学していてこもりっきりだ。まぁ、礼儀作法や言葉遣いの家庭教師らしい方がきて勉強していたので暇になることはなかったけど、窓から見える外の世界が、どんどん遠く感じた。
それに使用人からの嫌がらせ回避に忙しかったし……うん。毎日、孤独と戦っていた。あの頃の自分を思い出すと、胸が痛むけど今ここで弱みを見せられない。穂貴さんに、迷惑をかけたくない。