【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜



「そういうことでしたか。大丈夫ですよ、無理はさせません……軽い散歩でしたら植物園に行きませんか? 美宙さんが良ければですが」

「植物園……藤乃さんは、お好きなんですか?」

「えぇ、とても。植物を見るのはとても楽しいです、心癒されますし仕事にも繋がっているので」


 穂貴さんはとても楽しげに植物園の魅力を語ってくれた。その様子がとても可愛らしくて年上には見えない。笑顔が柔らかくて、目が輝いている。

 こんなに熱く語る人、初めてかも。心の中で、興味が湧いてくる。如月家では、こんな個人的な話なんてしなかったのに……。


「藤乃さんは、染織家をされていらっしゃるんですよね? どんなお仕事か伺ってもよろしいでしょうか?」

「はい、喜んで。染織家は、織物と染め物の両方を手掛ける作家のことをいいます。まず染め物には、草木染め、型染め、捺染、注染、ろうけつ染め、シルクスクリーンプリントなどとたくさんの種類に多様な技法があって染料の種類も多いんです。それに織物が持つ表現力と可能性は奥深くてですね……縦糸に横糸を通して生地に仕立てるものなんですが、糸を変えることで繊細な柄を描くことも可能なんです。私がやっているのは……あっ、すみません。ベラベラと話してしまって」

「ふふ、とても勉強になります。もっと知りたいです」

「そんなふうに言っていただけたのは初めてです。私は草木染めというのをしていまして、なので植物園に行って色々な草木を見るのです。まぁ、仕事も兼ねてみたいな感じなんですけど」


 穂貴さんはとても楽しそうに、植物の話や染色のこと織物のことを私でもわかりやすいように砕いて話をしてくれた。なんだかお勉強教室になってしまったけど、それは楽しくて幸せな時間だった。

 言葉の一つ一つが、穂貴さんの情熱を伝えてくる。心が温かくなる。こんなに誰かと話すのはいつぶりだろうか。

 別邸の孤独な日々が、遠い昔のように感じる。でも、この時間が終わったら、またあの部屋に戻るのか……と思うと、少し寂しくなる。

 植物園に行く予定だったのに、話だけして時間が遅くなるといけないからと穂貴さんは家まで送ってくれた。車の中でも、穂貴さんの声が優しく響く。
 別邸の前に着いた時、心の中で名残惜しさが募る。今日は、予想外に楽しい一日だった。



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