【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
「ですが、手が冷たいです。それにその洋服は寒くないですか? 私のジャケットを着てください」
「えっ、でも。藤乃さんが寒くなっちゃうんじゃないですか?」
「私は、大丈夫です。さぁ、乗ってください」
穂貴さんのジャケットの温もりが、肩にかかる瞬間、胸が熱くなる。こんなふうに優しくしてもらったのは初めてだ。
如月家では味わったことない。養父様やお義母様は、いつも距離を置いていたのに……穂貴さんは、優しい。近づこうとしてくれる。
嬉しいのに、怖い。こんなに甘やかされて、いつか失望されたらどうしようなんてことを考えてしまう。
穂貴さんは、後部座席のドアを開けると私に座るように促した。私が座ると、穂貴さんは反対側のドアから乗り込む。車内の空気が穏やかで、心が少し落ち着く。
「美宙ちゃん、今日は運転を頼んだんだ。運転手兼私の専属執事、宮下だよ」
せ、専属執事!? 心の中で驚きが爆発する。穂貴さんそんな、すごい方だったのね……でも、確かに出版社の副社長さんだって聞いたし有り得ない話でもないのか。旧華族の家柄だもの……でも、私のような訳ありの養女が、こんな世界に足を踏み入れていいのか不安で一杯だった。