【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜



「藤乃さん、私、藤乃さんがしてる草木染めが見てみたいです」

「え、本当に?」

「はい。なんだかとても楽しそうで……」

「そっか。うん、じゃあ、次に会う時に……いや、一緒に住まない?」


 ……え? 藤乃さん、ぶっ飛びすぎじゃない? 心の中で、混乱が渦巻く。私はただ、草木染めが見たいと言っただけなんですけど……?

 突然の提案に、胸がどきどきする。同居? そんなに急に? でも、穂貴さんの真剣な目を見ると、拒否しにくい。


「急、すぎませんか?」

「そんなことないだろう? 婚約期間が終わったら、結婚するんだし。婚前同居というものだよ。それに、アトリエはね自宅の一階にあるんだよね。だから一緒に住んだほうがいいんだよ」

「はぁ……ですけど、お義父さんがなんて言うか」

「うん。それは大丈夫。美宙ちゃんが良ければいいって許可は取れたから。美宙ちゃんのイエスかノーでこれからが変わるよ」


 まぁ、旦那様にとってはいいよね。私のことは早く結婚してほしいと思っているし、そのための私だし……藤乃さんも悪い人じゃなさそうだし、なら同居してもいいんじゃないかと思えてきて私は彼の言葉に頷いた。

 心の中で、さまざまな感情が交錯する。不安、期待、諦め……如月家の別邸から抜け出せるチャンス。孤独な日々が終わるかも。でも、穂貴さんの本心は? 私を本当に想ってくれているのか、それともただの政略? でも、今は信じてみよう。頷く瞬間、手が少し震えた。



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