【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
「ん、なんで? 美宙ちゃんは、こうするの嫌なの?」
穂貴さんの声に、少しのからかいと、それ以上の優しさが混じっている。彼はいつもこうだ。私の気持ちを尊重しながら、でも少し強引に近づいてくる。
そのバランスが、たまらなく好きで、苦しい。嫌なんかじゃない。むしろ、大好きだ。
でも、こんなに素直に言えない自分がもどかしくて、胸が痛む。もっと強くなりたい。
そんなことはないって言いたい。でも、とても密着してるし、こんなくっつかれたら心臓がドキドキしてたまらなくなる。そんなことを頭の中で叫びながら、結局小さく首を振るしかできない。穂貴さんの存在が、私のすべてを満たすのに、それに慣れきれなくて、毎回新鮮な感動と混乱が訪れる。
「なら、いいでしょう? そうだ、美宙ちゃんが染めた糸が綺麗に色がついたよ。後で一緒に織ってみない?」
穂貴さんが少し体を離しながら、そう言ってくれた瞬間、胸の奥がきゅっと温かくなる。
アトリエの話は好きだ。他的の仕事の世界に、私を招き入れてくれることが、嬉しくてたまらない。心の中で、期待が膨らむ。この提案が、私を彼の一部として認めてくれている証のように感じて、胸が熱くなる。
「いいんですか?」
「うん。いいよ……勉強とかやることないなら、だけど」
「大丈夫です。大学の課題はもう終了していて、宮下さんにお願いをして郵便に出したので」
私の本業は一応大学生。通信制とはいえ、卒業するためには課題をきちんと提出し続けなければならない。
学費を払ってくださっている如月家の旦那様への恩返しでもあるから、怠けるわけにはいかない。
でも、今は穂貴さんとの時間が何よりも優先で、心のどこかで罪悪感を感じながらも、彼との日常に溺れていく自分を止められない。
課題を終えた達成感と、穂貴さんとの時間を過ごせる喜びが混じり、胸が軽くなるのに、ふと「この生活が永遠か?」という不安がよぎる。大学を卒業したら、何になるのか。
こんな曖昧な私が、穂貴さんの隣に居続ける価値があるのだろうかと考えてしまう。