遅ればせラブアフェア
押し付けられた唇は、先ほどまでのキスとはまるで違うものだった。
啄むように唇を喰み、抵抗を見せたところでやめてくれる気配がない。
上から覆い被される初めての体勢は途轍もない圧迫感なのに、不思議と怖くはなかった。
むしろ、絶えず横髪を優しく撫でる手のひらが優しくて……トロリと溶ける思考回路と一緒に根強い敵対心も溶けていく。
……どうしてしまったんだろう、私。こういうことは好きな人としかしたくないって思っていたはずなのに。
触れる肌から伝わる自分のものか、海里のものか分からない熱がどんどん頭をおかしくさせる。
くちゅり、と卑猥な水音。ねっとりと絡む舌の感触。……私を映す海里の双眼。
恥ずかしくて、耳も目も塞いでしまいたいのに、色気を放つ海里から何故だか目が離せない。
ほんの少しだけ唇同士に隙間ができた瞬間、「かい、り……」と息絶え絶えに名前を呼ぶと、フッと笑った彼から「……なに?南萌」と呼び返された。
ただ名前を呼ばれただけ。それなのに、カアアアっとお腹の底から湧き上がる熱い熱い熱。
爆発を繰り返す心臓は痛くて苦しくて、意味もなく泣きたくなるほど、今の私には余裕がない。
「南萌、苦しい?」
「く、苦しい……」
「ふーん、……ならやめる?」
「……」
息を荒げる私を試すように問う海里。
胸を押してもキスをやめてくれなかった彼から突然与えられた選択権は、絶好のチャンスのはずだった。
迷わず「当たり前でしょ?!退きなさいよ」と叫べばいい。「触らないで!」と殴ればいい。そのはずなのに……
「……や、やめ、て」
「……」
私の口から出たのは、なんとも弱々しい拒否の言葉。
抑揚もなく、口先だけで唱えられたそれは、言わないといけなかった定型文みたいだった。