(悩める)リケジョの白井さんと(気ままな)リケダンの日高くん

 初回の委員会が解散となり、わらわらとメンバーは教室をあとにした。同じ方向へ帰る面々で自然と別れていく。
 私は駅に向かってひとり歩き出した。ひとり歩くときけば寂しい感じがするが、今日のこの日の幸せな気分に浸っていたかったのでちょうどよかった。
 「白井さーん!」
 学校正門を出たところで、名を呼ばれる。条件反射で振り返れば、日高くんがこちらに向かって走ってきている。
 「!」
 すぐに彼は追いついた。私の目の前で軽く息を切らせながら、
 「危うく忘れるところだった」
 と、スマホを取り出したのだった。

 「アドレス、交換しよ」
 「え? アドレス? さっき交換したじゃん」
 「いや、卒アルのじゃなくて、個人的に」

 個人的にのひと言で、心臓が跳ねあがる。
 (それは一体、どういう意味?)
 (き、期待しちゃう……)
 (期待しても、いいの?)
 この心臓の音がすぐそばにいる日高くんにきこえやしないかと、緊張する。緊張すれば、ますます鼓動が激しくなる。きっと顔だって、赤面しているに違いない。
 できるだけ平素を装って、いや多分できていないと思われるのだが、その真意を問うた。

 「個人的にって?」
 「僕さぁ、副委員長と兼任じゃん、絶対に被ると思うんだよ」
 「…………」

 進学校の中でもエリートが集うクラスの副委員長ポストなんて、聞こえはいいがやはり体のいい雑用係である。他の人の勉強の邪魔にならないようにと、先生から御用が押し付けられる日高くんの未来図が想像できた。

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