(悩める)リケジョの白井さんと(気ままな)リケダンの日高くん
 気になる人からかわいい珍獣といわれて、嬉しいような悲しいような……さりげなくこんなことをいうのは、意図してのことか?
 「あ、ごめん。ズゲズゲいってしまった」
 反応に困る私に、慌てて日高くんは謝った。
 「白井さん、一見、真面目な雰囲気で冗談通じない感じだけど、本当はそうじゃないんだよね。でも今のはいいすぎた、ごめん」
 「あ、うん。悪気があってのことじゃないから……」
 はじめて自分の評価を耳にして、先までの戸惑いが飛び、今度は照れくさい。

 カフェから駅までの道は短くて、すぐに駅の入り口がみえてくる。
 日高くんは電車に乗って、私はバスに乗って帰宅する。ふたりでこうしていられるのは、駅改札口まで。タイムリミットが迫っていた。

 タイムリミットが迫っていた――だけど、私から次の約束をつけるような行動に出ることは、できない。奥手なんだからといわれても、それ以前に日高くんはただの出身校が同じ人というだけである。
 いま勇気を出して、もう一歩踏み出せば、親に農学部進学を認めさせる熱心さがあれば、改札口でお別れの未来が変わるかもしれない。
 でも一発逆転の賭けに出て、失敗したら? そう思うと、怖くて勇気が出ないのだ。
 不意打ちのパフェデートを二回して、卒アル委員活動中に撮ったフォトを胸にして、望む大学へ進学する未来を掴んでいる、もう上等だと思う。
 運がよければ、今日のような日高くんと会える日がやってくる。そのささやかな可能性を潰す賭けには出れなかった。

 「あ、そうだ。忘れるところだった!」
 もう駅改札がみえるところで、日高くんがトーンの違う声を出した。本当に忘れていたという声で、
 「俺、スマホ壊れて新しくなったんだけど、アドレスも変わってしまったんだ。で、悪いけど、またアドレス交換してくれない?」
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