窓明かりの群れに揺れる
 その日の夜、
 春奈は達也と軽く食事をした。

 仕事終わりのオフィス街は、
 いつもより静かで、
 人の声もどこか遠い。

 「恵さん、大丈夫かな」

 春奈が言うと、達也は頷いた。

 「たぶん、
  “平気”って言いながら無理してた」

 「ですよね……。
  笑い方が、ちょっとだけ違った」

 「春奈にもそう見えた?」
 「はい」

 「なら、たぶん合ってる」

 短い会話なのに、
 胸の奥が落ち着かない。

 心配の形をした違和感が、
 ずっと残っている。

 それでも、達也と向かい合っていると、
 張っていた糸が
 ほんの少しだけ緩む瞬間があった。

 仕事の話をして、
 同じところでため息をついて、
 くだらない一言に笑ってしまう。
 (……こういう人と、未来って作れるのかな)

 ふっと浮かんだ考えに、
 春奈は自分で驚く。

 すぐに打ち消すのに、
 消えきらない温度だけが胸に残った。
 (まだ、決めるのは早い)

 そう思い直しながらも、
 「希望みたいなもの」を、
 そっと握りしめてしまう。
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