窓明かりの群れに揺れる
 控室を出て待合スペースに戻り、
 恵が出てくるのを待った。

 「おつかれ〜……!」

 面接を終えた恵が、
 ぐったりした表情で春奈の前に
 戻ってくる。

 「どうだった?」

 「聞かないでほしい……って
  言いたいところだけど、
  まあまあ、かな。
  春奈は?」

 「私も、まあまあ……。
  答えられたところもあるし、
  あやしいところもあるし」

 「じゃあ、もうこれは“お互い
  よく頑張りました会”だね。
  近くにカフェあるみたいだし、
  ちょっとだけ寄らない」

 「うん!」

 近くのビルの一階に入っている
 カフェに移動して、
 二人でコーヒーを注文する。

 紙コップを両手で包み込みながら、
 さっきの面接のこと、
 他に受けている会社のこと、
 地元の噂話――
 話題はどんどん変わっていく。

 「春奈、東京の会社も
  何社か受けてるんだ?」

 「うん。できれば東京で
  働きたいなって思ってて。
  まだ、全部落ちたらどうしようって
  不安のほうが大きいけど」

 「わかる。でも、
  ちゃんと考えて動いてるだけえらいよ。
  “なんとなく”で受けてる子も、
  結構いるし」

 「恵は?」

 「私は、まあ……
  受かったとこに行くかなあ。
  正直、どこが第一志望か
  自分でもよくわかってないかも」

 笑いながらも、
 その目は少しだけ真剣だった。

 「でもさ」

 恵はふと顔を上げる。

 「今日こうやって同じ面接会場で
  会ったの、なんか
  ちょっと心強かったよ」

 「それ、こっちのセリフ」

 コーヒーを飲みながら、
 春奈は窓の外の夕暮れの街を眺めた。

 さっきまで
 “ただ怖いだけの東京”だった場所が、
 少しだけ違って見える。
( ここで、私も人生が変わるのかな)

 そんなことを、ふと考えた。

 カフェで恵と別れ、
 夕方の駅前を通って
 マンションへ戻るころには、
 空はすっかり藍色に染まっていた。

 「ただいま、戻りました……」

 小さく呟きながら鍵を開けるクセが、
 つい出てしまう。
 けれど玄関の灯りはまだ暗かった。
 (そっか、弘樹くん、まだ仕事か)

 スーツを脱いでハンガーにかけ、
 部屋着に着替える。

 やっと緊張の糸が切れたようで、
 身体がずしんと重く感じられた。
< 11 / 122 >

この作品をシェア

pagetop