窓明かりの群れに揺れる

4.都会と緊張と励まし

 一次面接が終わってからの「三営業日」は、
 永遠みたいに長かった。

 スマホの通知音が鳴るたびに、心臓が跳ねる。

 来ているのは通販サイトのメールだったり、
 大学からの連絡だったりして、
 そのたびに力が抜ける。

 春奈は、近くの区立図書館の一角に座っていた。

 窓の外には、岩手ではあまり見ない高さの
 ビルが並んでいるけれど、館内は驚くほど
 静かで、どこか落ち着く空気が流れている。

 (図書館の雰囲気って、
  東京でもそんなに変わらないんだな)

 就職情報誌や企業のパンフレットを並べて、
 二次面接で聞かれそうなことを
 ノートにまとめる。

 ときどき、隣の席のスーツ姿の人がパソコンを
 閉じて伸びをする音や、
 コピー機の低い作動音が聞こえてきて――
 「ここでそれぞれの毎日を頑張ってる
  人たちがいるんだ」と思うと、
 自分も少しだけこの街の一部に
 なれたような気がした。

 図書館を出て、
 コンビニでおにぎりをひとつ買って、
 歩きながら頬張る。
 ふと顔を上げると、ビルとビルの隙間から、
 細く切り取られた青空が見えた。

 (昨日より、
  ちょっとだけ“東京”が近くなった気がする)

 そう思いながら、弘樹のマンションへと帰る。

 シャワーを浴びて部屋着に着替えた春奈が
 リビングに出ると、
 弘樹がリモコンを片手にソファに腰掛けていた。

 「おかえり。図書館、どうだった?」

 「静かで、過ごしやすかったです。
  なんか、スーツの人とか
  リモートワークっぽい人とかもいて……“
  みんな、それぞれ頑張ってるんだな”って
  感じでした」

 「それはいいね。
  東京の人間も、意外と地味にコツコツ
  やってんだよ」

 軽く笑ってから、弘樹はリモコンをソファの
 横のクッションに置いた。

 「よかったら、ちょっとテレビでも観ない? 
  結果待ちで頭パンパンだろうし、
  考えすぎても疲れるだけだし」

 「……そうですね。少しだけ」

 ソファの反対側に遠慮がちに座ろうとすると、
 「そんな離れなくても」と笑われて、
 結局、クッションひとつ分だけ空けて
 腰を下ろすことになった。

 画面に映ったのは、軽いコメディ映画。
 テロップや笑いどころはわかるのに、
 春奈の意識はどうしても隣の気配に
 引っ張られてしまう。

 ふとしたタイミングで、
 置いてあったクッションがずれて、
 肩と肩がかすかに触れ合った。
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