窓明かりの群れに揺れる

 ポップコーンの袋を受け取ろうとして、
 指先が一瞬だけ触れる。そのたびに、
 どくん、と胸の奥で音が鳴る。
 (映画の内容、
  ちゃんと入ってこない……)

 自分でもおかしいと思いながらも、
 画面よりも、隣の温度ばかりが
 気になってしまう。

 「そんなに緊張した顔でコメディ観てる人、
  初めて見たかも」

 「えっ、そんなに緊張してますか?」

 「うん。今のボケ一個も拾えてない
  顔してた」

 「だって、明日かもしれないし、
  明後日かもしれないし……」

 「結果のこと?」

 「……はい。メールの音、
  怖くなってきました」

 リモコンを手にした弘樹は、
 映画を一時停止した。

 画面が静止画になって、
 部屋の中の音がすっと薄くなる。

 さっきまでコメディの笑い声で
 紛れていた不安が、ふわっと、
 浮かび上がってくるのを感じながら――

 春奈は、膝の上で指を組んで、
 そっと視線を落とした。

 リモコンをテーブルに置いて、
 弘樹は少しだけ真面目な表情になった。

 「……結果、怖いよな」

  「はい。
   “来てほしい”って思ってるくせに、
   いざメールが来るのが
   怖いっていうか」

 「わかる。俺もそうだったよ。
  来なきゃ来ないでソワソワするし、
  来たら来たで開けるのに
  勇気いるんだよな」

 冗談みたいな言い方なのに、
 その口調には変な慰めじゃない、
 実感のある重みがあった。

 「でもさ、どっちに転んだとしても、
  “春奈がダメだった”って
  話にはならないから」

 「え……?」

 「合わなかったとか、
  タイミングが悪かったとか、
  そういうことは普通にある。
  落ちたとしても、“全部自分のせい”って
  決めつける必要はないってこと」

 春奈は、組んでいた指先に力をこめた。

 「……でも、やっぱり、
  落ちたら落ち込むと思います」

 「それは落ち込んでいいんだよ。
  落ち込むけど、そのあと“じゃあ
  次どうするか”を考えればいいだけ」

 さらっと言ってから、
 弘樹は少し表情を和らげた。

 「明日のメールで人生全部
  決まるわけじゃないしさ。
  たまたま最初のスタートラインが
  どこになるかって、だけだよ」

 「……たまたま、ですか」

 「そう。
  春奈がちゃんと準備して、
  ちゃんと受け答えしたって事実は、
  結果と別に残るからさ」

 その言葉に、胸の奥にぎゅっと固まって
 いたものが、
 ほんの少しだけほどけていく。

 「なんか……ちょっとだけ、
  呼吸しやすくなりました」

 「それならよかった。
  とりあえず、結果を先に想像して勝手に
  疲れるのはもったいないからさ。
  今日はちゃんと寝て、明日メールが来たら、
  そのとき一緒に悩めばいい」

 「一緒に……?」

 「受かっても落ちても、
  話くらい聞けるからさ」

 さらっとした調子で言われた一言に、
 春奈はそっと視線を上げた。

 そこには、大げさに励ますでもなく、
 ただ「大丈夫だ」と言ってくれている
 大人の目があった。
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