窓明かりの群れに揺れる
5.合格の日 ― メールと、一枚の写真
三日目の朝。
目覚ましの音が鳴るより少し前に、
春奈は自然と目を開けた。
(今日……来るかもしれない)
胸の奥がざわついて、
二度寝する余裕はない。
身支度を済ませて部屋から出ると、
キッチンでは弘樹が簡単な朝食の準備を
していた。
「おはよう、春奈ちゃん」
「おはようございます」
「パンでいい? 時間もそんなにないし」
「はい、なんでも大丈夫です」
トーストと目玉焼き、インスタントのスープ。
同じテーブルで向かい合って食べるだけなのに、
どこか家族とも友達とも違う、
不思議な距離感があった。
「今日も図書館?」
「はい。エントリーシートの見直しと、
二次面接の企業研究をもう一回
やっておきたくて」
「えらい。俺の就活のときの自分に
聞かせたいくらいだな」
時計を見ると、出るつもりだった
時間が近づいている。
「そろそろ行くか」
「はい」
玄関でそれぞれ靴を履き、
ドアの前に並ぶ。
「じゃあ、俺はこっちの路線。
春奈ちゃんは昨日と同じ道で
図書館だよね」
「そうです。……行ってきます」
朝の空気は少しひんやりしているのに、
日差しは明るくて、空はすっきりした
青だった。
それだけで、今日は何かが起こりそうな
気がしてしまう。
図書館の、昨日と同じ窓際の席。
ノートと企業パンフレットを広げて、
志望動機の文章を見直していると、
机の上のスマホが小さく震えた。
(また、メルマガとかだったらやだな……)
そう思いながらも、心臓の鼓動だけは
一気に早くなる。
画面を伏せたまま手に取り、
ゆっくりと向きを変えると――
差出人の欄に、志望企業の名前が
表示されていた。
(来た……)
喉の奥がきゅっと詰まる。
周りは静かな図書館で、
誰もこちらを気にしていないのに、
自分だけ世界から浮いているみたいだ。
震えそうになる指で、メールを開く。
一次選考結果のご連絡――
文章の途中までしか目に入らないのに、
「通過」という文字だけが、
そこだけ太字になっているかのように
飛び込んできた。
「……っ」
思わず声が出そうになり、
慌てて口元を手で押さえる。
背筋をぐっと伸ばして、呼吸を整えた。
(一次……通った。
ちゃんと通った……!)
胸の奥から、じわっと熱いものが
せり上がってくる。
机の下で、誰にも見えないように、
ぎゅっと拳を握り締めて
小さくガッツポーズをした。
(やった……!)
涙が出そうになるのを、
ぱちぱちとまばたきして追い返す。
この場で泣くわけにはいかない。
でも、どうしても誰かに伝えたくて――
春奈は、
手帳を開いてカバーの影に隠しながら、
弘樹宛てに短くメッセージを打った。
『メール来ました。
詳しくはあとでちゃんと話します』
送信したあと、スマホをまた伏せる。
図書館の空気は、
さっきと変わらず静かなのに、
世界が少しだけ明るくなった気がした。
目覚ましの音が鳴るより少し前に、
春奈は自然と目を開けた。
(今日……来るかもしれない)
胸の奥がざわついて、
二度寝する余裕はない。
身支度を済ませて部屋から出ると、
キッチンでは弘樹が簡単な朝食の準備を
していた。
「おはよう、春奈ちゃん」
「おはようございます」
「パンでいい? 時間もそんなにないし」
「はい、なんでも大丈夫です」
トーストと目玉焼き、インスタントのスープ。
同じテーブルで向かい合って食べるだけなのに、
どこか家族とも友達とも違う、
不思議な距離感があった。
「今日も図書館?」
「はい。エントリーシートの見直しと、
二次面接の企業研究をもう一回
やっておきたくて」
「えらい。俺の就活のときの自分に
聞かせたいくらいだな」
時計を見ると、出るつもりだった
時間が近づいている。
「そろそろ行くか」
「はい」
玄関でそれぞれ靴を履き、
ドアの前に並ぶ。
「じゃあ、俺はこっちの路線。
春奈ちゃんは昨日と同じ道で
図書館だよね」
「そうです。……行ってきます」
朝の空気は少しひんやりしているのに、
日差しは明るくて、空はすっきりした
青だった。
それだけで、今日は何かが起こりそうな
気がしてしまう。
図書館の、昨日と同じ窓際の席。
ノートと企業パンフレットを広げて、
志望動機の文章を見直していると、
机の上のスマホが小さく震えた。
(また、メルマガとかだったらやだな……)
そう思いながらも、心臓の鼓動だけは
一気に早くなる。
画面を伏せたまま手に取り、
ゆっくりと向きを変えると――
差出人の欄に、志望企業の名前が
表示されていた。
(来た……)
喉の奥がきゅっと詰まる。
周りは静かな図書館で、
誰もこちらを気にしていないのに、
自分だけ世界から浮いているみたいだ。
震えそうになる指で、メールを開く。
一次選考結果のご連絡――
文章の途中までしか目に入らないのに、
「通過」という文字だけが、
そこだけ太字になっているかのように
飛び込んできた。
「……っ」
思わず声が出そうになり、
慌てて口元を手で押さえる。
背筋をぐっと伸ばして、呼吸を整えた。
(一次……通った。
ちゃんと通った……!)
胸の奥から、じわっと熱いものが
せり上がってくる。
机の下で、誰にも見えないように、
ぎゅっと拳を握り締めて
小さくガッツポーズをした。
(やった……!)
涙が出そうになるのを、
ぱちぱちとまばたきして追い返す。
この場で泣くわけにはいかない。
でも、どうしても誰かに伝えたくて――
春奈は、
手帳を開いてカバーの影に隠しながら、
弘樹宛てに短くメッセージを打った。
『メール来ました。
詳しくはあとでちゃんと話します』
送信したあと、スマホをまた伏せる。
図書館の空気は、
さっきと変わらず静かなのに、
世界が少しだけ明るくなった気がした。