窓明かりの群れに揺れる
夕方近くまで図書館で過ごし、
その足でスーパーに立ち寄る。
野菜売り場で、
今日の献立を頭の中で組み立てる。
(何か、あったかいものがいいな……。
スープと、野菜たっぷりの炒め物とか)
かごに食材を入れながら、
自然と表情が緩むのが自分でもわかった。
「あ、このエプロンも買っていこう」
(エプロンしていたら、
弘樹くん驚くだろうな・・・)
レジを済ませ、マンションに戻ると、
部屋の中はまだひんやりと静かだった。
スーツジャケットをハンガーにかけ、
エプロンを取り出してから、
ふとリビングを見回す。
テーブルの端には読みかけの雑誌、
ソファには脱ぎかけのジャケット、
棚の上には郵便物の束。
よく見れば、片付いてはいるけれど、
ところどころ「一人暮らしの生活感」が
そのまま残っている。
(忙しいんだろうな……)
「お世話になってるし、
少し片付けてもいいよね」
春奈は、
エプロンの紐を結び直してから、
テーブルの上の雑誌や封筒を
種類ごとに整え始めた。
ソファのクッションを整え、
床に落ちていた小さなゴミを拾い、
テレビ台の上のリモコンの位置を揃える。
そのとき、
リビングの隅に何かが落ちているのが
目に入った。
(……紙?)
中腰になって近づき、拾い上げてみると、
それは写真だった。
角が折れ、片側が少し曲がっている。
そっと伸ばした指で折れた部分を戻すと、
そこには――
スーツ姿の弘樹と、
長い髪のきれいな女性が並んで写っていた。
女性は淡い色のワンピースに
ジャケットを羽織り、
弘樹の腕に軽く手を添えている。
背景には、ホテルのようなロビーの装飾。
(……この人が、奥さん?)
胸の奥が、
きゅっと掴まれたみたいに痛んだ。
別に知らない人のはずなのに、
写真の中の距離感はとても近くて、
それが“過去のこと”だとわかっていても、
心がざわつく。
(ちゃんと、好きだったんだろうな)
写真の中で、弘樹は、
何故か別人のように感じられた。
そして、その横にいる女性を見つめる目は、
とてもやさしかった。
春奈は、指先に力を込めるのをこらえながら、
そっと写真を裏返した。
裏面には、
かすれたペンで日付と短い言葉が
書かれている。
(これ以上は、見ないほうがいい)
自分にそう言い聞かせるように、
小さく息を吐くが、何故か動揺していた。
(だって私は、“今ここに泊めてもらってる
従妹”でしかないんだし)
そう思おうとすると、
さっき図書館で感じたばかりの嬉しさと、
自分の中にある何かが、
少しだけぶつかるのがわかった。
写真をそっと棚の端に立てかける。
本当はどこに置いてあったのか分からないから、
あえて目立たない位置に。
「……よし」
気持ちを切り替えるように、
エプロンの前で手を叩いた。
今は、夕飯の支度をすることに
意識を向ける。
キッチンに立ち、野菜を切る音と、
フライパンにオリーブオイルを落とす音が
リビングに広がる。
コンソメスープの湯気と、
炒めた玉ねぎの甘い香りが、
部屋の空気を少しずつ変えていく。
(一次、通ったって、どうやって言おうかな)
嬉しい報告のはずなのに、
さっき見てしまった写真のせいで、
心が少し落ち着かない。
胸の奥で、喜びとざわつきが混ざり合っている。
(でも……報告はちゃんとしないと。
あのノート見て、アドバイスくれたのも、
励ましてくれたのも、弘樹くんだし)
その足でスーパーに立ち寄る。
野菜売り場で、
今日の献立を頭の中で組み立てる。
(何か、あったかいものがいいな……。
スープと、野菜たっぷりの炒め物とか)
かごに食材を入れながら、
自然と表情が緩むのが自分でもわかった。
「あ、このエプロンも買っていこう」
(エプロンしていたら、
弘樹くん驚くだろうな・・・)
レジを済ませ、マンションに戻ると、
部屋の中はまだひんやりと静かだった。
スーツジャケットをハンガーにかけ、
エプロンを取り出してから、
ふとリビングを見回す。
テーブルの端には読みかけの雑誌、
ソファには脱ぎかけのジャケット、
棚の上には郵便物の束。
よく見れば、片付いてはいるけれど、
ところどころ「一人暮らしの生活感」が
そのまま残っている。
(忙しいんだろうな……)
「お世話になってるし、
少し片付けてもいいよね」
春奈は、
エプロンの紐を結び直してから、
テーブルの上の雑誌や封筒を
種類ごとに整え始めた。
ソファのクッションを整え、
床に落ちていた小さなゴミを拾い、
テレビ台の上のリモコンの位置を揃える。
そのとき、
リビングの隅に何かが落ちているのが
目に入った。
(……紙?)
中腰になって近づき、拾い上げてみると、
それは写真だった。
角が折れ、片側が少し曲がっている。
そっと伸ばした指で折れた部分を戻すと、
そこには――
スーツ姿の弘樹と、
長い髪のきれいな女性が並んで写っていた。
女性は淡い色のワンピースに
ジャケットを羽織り、
弘樹の腕に軽く手を添えている。
背景には、ホテルのようなロビーの装飾。
(……この人が、奥さん?)
胸の奥が、
きゅっと掴まれたみたいに痛んだ。
別に知らない人のはずなのに、
写真の中の距離感はとても近くて、
それが“過去のこと”だとわかっていても、
心がざわつく。
(ちゃんと、好きだったんだろうな)
写真の中で、弘樹は、
何故か別人のように感じられた。
そして、その横にいる女性を見つめる目は、
とてもやさしかった。
春奈は、指先に力を込めるのをこらえながら、
そっと写真を裏返した。
裏面には、
かすれたペンで日付と短い言葉が
書かれている。
(これ以上は、見ないほうがいい)
自分にそう言い聞かせるように、
小さく息を吐くが、何故か動揺していた。
(だって私は、“今ここに泊めてもらってる
従妹”でしかないんだし)
そう思おうとすると、
さっき図書館で感じたばかりの嬉しさと、
自分の中にある何かが、
少しだけぶつかるのがわかった。
写真をそっと棚の端に立てかける。
本当はどこに置いてあったのか分からないから、
あえて目立たない位置に。
「……よし」
気持ちを切り替えるように、
エプロンの前で手を叩いた。
今は、夕飯の支度をすることに
意識を向ける。
キッチンに立ち、野菜を切る音と、
フライパンにオリーブオイルを落とす音が
リビングに広がる。
コンソメスープの湯気と、
炒めた玉ねぎの甘い香りが、
部屋の空気を少しずつ変えていく。
(一次、通ったって、どうやって言おうかな)
嬉しい報告のはずなのに、
さっき見てしまった写真のせいで、
心が少し落ち着かない。
胸の奥で、喜びとざわつきが混ざり合っている。
(でも……報告はちゃんとしないと。
あのノート見て、アドバイスくれたのも、
励ましてくれたのも、弘樹くんだし)