窓明かりの群れに揺れる
第2章

7.帰郷の車窓で揺れる心と、小さな決意

 駅のホームに滑り込んできた新幹線に
 乗り込むときも、

 座席に腰を下ろしてシートベルトを
 留めたときも、

 胸の奥はずっとざわざわしていた。

 車内アナウンスが流れ、ゆっくりと
 東京の街が後ろへ流れていく。

 窓の向こうに広がるビル群が少しずつ低く
 なっていくのを見つめながら、
 春奈は、ハンカチでそっと目元を押さえた。
 (……本当に、帰ってる)

 さっきまで、玄関で触れていた体温。
 押し返した掌の感触。

 あの一瞬が夢みたいで、
 思い出そうとすると
 胸のあたりがきゅうっと縮こまる。

 「っ……」

 視界がぼやけて、
 窓に映る自分の顔がうまく見えない。

 慌ててうつむき、
 膝の上で握った手をぎゅっと強く
 握り締めた。
 (私、何してるんだろう)

 嬉しかった。
 怖かった。

 嬉しかったことを認めるのが、
 もっと怖かった。
 スマホがポケットの中で
 小さく振動した気がして、思わず取り出す。

 画面には、「気をつけて帰れよ」という
 弘樹からの短いメッセージが表示されていた。

 読みかけのその一文を、何度も指でなぞる。
 (“ありがとう”って返せばいいだけなのに)

 どう返事をしたらいいのかわからなくて、
 文字入力の画面を開いては閉じる。

 そうしているうちに、電車はトンネルに入り、
 窓の外の景色が真っ暗になった。

 岩手の駅に着く頃には、
 目の赤みも少し引いていた。

 改札を出ると、
 母が手を振っているのが見える。

 「おかえり!」

 「ただいま」

 笑顔を作りながら近づくと、
 母はいつもの調子で
 荷物の心配ばかりしてくる。
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