窓明かりの群れに揺れる
 「スーツ、しわになってない? 
  疲れたでしょう? 東京どうだった?」

 「大丈夫。ちゃんと行って、
  ちゃんと帰ってきたから」

 「結果はまだなんだよね?」

 「うん。一次は……通った。
  でも、まだ二次もあるし、
  全部決まったわけじゃないから」

 「すごいじゃない!
  とりあえず通ったってだけでも、
  よくやったわよ」

 母の「よくやった」は、
 単純に娘の頑張りを
 喜んでいるだけの言葉で。

 そこに、玄関のキスも、
 元奥さんの写真も、
 一切含まれていない。

(それでいい。
 それ以上のことは、言えない)

 そう自分に言い聞かせながら、
 春奈は「面接どうだった?」
 という質問に、
 当たり障りのない答えだけを返した。
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