窓明かりの群れに揺れる
家に戻って数日は、
レポートやエントリーシートの
締め切りに追われて、
無理やり頭を忙しくさせた。
夜、机に向かっていると、
スマホがひとつ震える。
『今日はちゃんと帰れた?
体調大丈夫?』
弘樹からだ。
しばらく画面を見つめて、
それから当たり障りのない返事を書く。
『無事に着きました。
体調も大丈夫です。
その節はお世話になりました』
敬語ばかりのメッセージ。
送信してしまってから、
「もっと別の言い方が
あったんじゃないか」と、
枕に顔を埋めたくなった。
既読はすぐに付いた。
けれど、数分待っても返信は来ない。
(……そうだよね)
自分から距離を置くみたいな文章を
送っておいて、
返事を期待するのは、わがままだ。
机の上のノートをもう一度開き、
「志望動機」のページに視線を落とした。
数日が過ぎ、
二次面接の案内メールが届いた。
東京の会社から、また東京に来るように、
と丁寧な文章で書いてある。
(また、東京……)
心が、ふたつの方向に引っ張られる。
就活生としての自分は、
「行かなきゃ」
「チャンスを掴まなきゃ」と
まっすぐ前を向く。
一方で、従妹としての、
自分自身としての心は――
(今度行ったら、
ちゃんと顔見て話せるのかな)
玄関のキス、
その後ろにある過去の結婚の話。
逃げた自分。
読みかけのメッセージ。
どれも中途半端なまま止まっている。
夜、布団の中で、
春奈は天井を見つめながら考えた。
(私、弘樹くんのことを
どう思ってるんだろう)
いとこ。
東京にいる、頼れる大人。
就活を助けてくれた、優しい人。
それだけで済ませるには、
玄関でのキスは、
あまりにもはっきりしすぎていた。
(“気になる人”。
でも、“怖い人”でもある)
自分の気持ちが、
ちゃんと「恋」だと言えるのか。
それとも、
東京と大人の男に対する憧れが
混ざった、一時的な感情なのか。
結論は、すぐには出ない。
だから春奈は、とりあえず一つだけ、
決めた。
(次に東京へ行くときは――
逃げないで、
ちゃんと自分の気持ちと向き合う)
それが、
「弘樹くんにどう答えるか」を
決める前に、
まず自分に対して
やらなきゃいけないことだと、
薄々わかっていたから。