窓明かりの群れに揺れる
9.二次、最終、そして内定 ― 東京は仕事の街
二次面接の朝。
ホテルのバイキングでパンとコーヒーだけの
簡単な朝食を済ませ、
スーツの裾を整えてから部屋を出る。
電車の揺れの中で、
前回みたいに
「誰かのマンションのある街」を
探そうとする癖が出そうになり、
春奈は意識して車内広告に視線を向けた。
(今日は、仕事のことだけ)
面接会場のフロアに着くと、
前と同じようにスーツ姿の学生が
集まっていた。
その並びの中に、
また見慣れた顔を見つける。
「春奈!」
「恵!」
恵の笑顔を見ると、
それだけで少し肩の力が抜けた。
「二次まで一緒か〜。
ここまで来たらさ、二人とも通りたいよね」
「うん。欲張りだけど、そう思う」
二人でまた小声で自己PRを復唱し合いながら、
春奈はふと、
自分の心が前より静かになっていることに気づいた。
(“ここで頑張る”って決めてから、
少し楽になったかも)
面接室のドアをノックし、
名前を告げる。
質問は一次のときより踏み込んでいて、
簡単ではなかった。
でも、自分の言葉で答えられた、
という感触が残った。
岩手に戻ってからも、
日々は容赦なく進んだ。
二次面接の結果がメールで届き、
最終面接の日程が決まり、
また東京へ行く。
今度もホテルを利用した。
選んだ駅は、会社から通いやすくて、
そしてあのマンションからは
少し離れた場所。
「東京=弘樹くんのいる街」じゃなくて、
「東京=自分が働きに来る街」だって、
ちゃんと切り替えたい。
そんな思いで、スーツケースを引いた。
最終面接の日、
役員たちの前で話しながら、
春奈ははっきりと感じていた。
(ここに来られているのは、
自分が動いたからだ)
誰かの家に泊めてもらったことも、
支えになってくれた言葉も、
全部含めても、
最後に「受ける」と決めているのは自分。
それなら、
ちゃんと自分の足で立たないといけない――
そう思って、
真っ直ぐに質問に向き合った。
数日後、
「内々定のご連絡」というタイトルの
メールが届いた。
画面を見た瞬間、
心臓が大きく跳ねて、
視界がじわりとにじむ。
(……受かった)
声には出さなかった。
でも、指先が小さく震えた。
すぐに恵からメッセージ。
『来た!?』
『来た!』
『電話していい!?』
『いい!』
通話ボタンを押すと、
勢いのいい声が飛び込んできた。
『やったね春奈、同じ会社!
同期!』
「ほんとに……よかった……」
笑いながら、泣きそうになった。
ただ、「よかった」が
何度も口からこぼれる。
『これでさ、東京に友達ゼロって状況は
回避だよ。
迷子になっても二人いれば
なんとかなるって』
「それ、ちょっと心強いかも」
電話を切ったあと、
春奈はスマホを持ったまま、
あえて連絡先一覧を開かなかった。
(知らせたい人がいる、って思った時点で、
また
“あの玄関”に戻ろうとしてるのかもしれない)
胸の奥が、少しざわつく。
でも、そのざわつきを、
今はそっと押し込める。
(この内定は、まず“私の人生のため”のもの)
そう自分に言い聞かせて、
春奈はスマホを机の上に伏せて置いた。
ホテルのバイキングでパンとコーヒーだけの
簡単な朝食を済ませ、
スーツの裾を整えてから部屋を出る。
電車の揺れの中で、
前回みたいに
「誰かのマンションのある街」を
探そうとする癖が出そうになり、
春奈は意識して車内広告に視線を向けた。
(今日は、仕事のことだけ)
面接会場のフロアに着くと、
前と同じようにスーツ姿の学生が
集まっていた。
その並びの中に、
また見慣れた顔を見つける。
「春奈!」
「恵!」
恵の笑顔を見ると、
それだけで少し肩の力が抜けた。
「二次まで一緒か〜。
ここまで来たらさ、二人とも通りたいよね」
「うん。欲張りだけど、そう思う」
二人でまた小声で自己PRを復唱し合いながら、
春奈はふと、
自分の心が前より静かになっていることに気づいた。
(“ここで頑張る”って決めてから、
少し楽になったかも)
面接室のドアをノックし、
名前を告げる。
質問は一次のときより踏み込んでいて、
簡単ではなかった。
でも、自分の言葉で答えられた、
という感触が残った。
岩手に戻ってからも、
日々は容赦なく進んだ。
二次面接の結果がメールで届き、
最終面接の日程が決まり、
また東京へ行く。
今度もホテルを利用した。
選んだ駅は、会社から通いやすくて、
そしてあのマンションからは
少し離れた場所。
「東京=弘樹くんのいる街」じゃなくて、
「東京=自分が働きに来る街」だって、
ちゃんと切り替えたい。
そんな思いで、スーツケースを引いた。
最終面接の日、
役員たちの前で話しながら、
春奈ははっきりと感じていた。
(ここに来られているのは、
自分が動いたからだ)
誰かの家に泊めてもらったことも、
支えになってくれた言葉も、
全部含めても、
最後に「受ける」と決めているのは自分。
それなら、
ちゃんと自分の足で立たないといけない――
そう思って、
真っ直ぐに質問に向き合った。
数日後、
「内々定のご連絡」というタイトルの
メールが届いた。
画面を見た瞬間、
心臓が大きく跳ねて、
視界がじわりとにじむ。
(……受かった)
声には出さなかった。
でも、指先が小さく震えた。
すぐに恵からメッセージ。
『来た!?』
『来た!』
『電話していい!?』
『いい!』
通話ボタンを押すと、
勢いのいい声が飛び込んできた。
『やったね春奈、同じ会社!
同期!』
「ほんとに……よかった……」
笑いながら、泣きそうになった。
ただ、「よかった」が
何度も口からこぼれる。
『これでさ、東京に友達ゼロって状況は
回避だよ。
迷子になっても二人いれば
なんとかなるって』
「それ、ちょっと心強いかも」
電話を切ったあと、
春奈はスマホを持ったまま、
あえて連絡先一覧を開かなかった。
(知らせたい人がいる、って思った時点で、
また
“あの玄関”に戻ろうとしてるのかもしれない)
胸の奥が、少しざわつく。
でも、そのざわつきを、
今はそっと押し込める。
(この内定は、まず“私の人生のため”のもの)
そう自分に言い聞かせて、
春奈はスマホを机の上に伏せて置いた。