窓明かりの群れに揺れる
 笑って、飲んで、食べているうちに、
 時間はあっという間に過ぎていった。

 「そろそろ終電、やばくない?」

 「うわ、ほんとだ。
  今日は解散しとこ。新人が初月から
  終電逃したらシャレにならない」

 店を出ると、
 駅前の空気は少しひんやりしていた。

 酔いのせいか、
 街灯がほんの少し柔らかく見える。

 「じゃ、ここで解散ね」

 「また来週もがんばろー」

 「次の飲み会、ボーナス出てからにしよ。
  もうちょっといい店で」

 それぞれ違う方向のホームへ向かって
 歩き出す。
 改札に向かう途中で、
 春奈はふと立ち止まり、振り返った。

 恵も達也も直樹も、
 同じ会社の同期として、
 同じスタートラインに立っている。
 (……私も、その中の一人なんだ)

 そう思えた瞬間、
 胸の中の「東京」が、
 少しだけ違う形を与えられた気がした。

 もう、「誰かを思い出す街」
 だけじゃない。
 自分の仕事、自分の同期、
 自分の生活がある場所。
 (きっと私は、
  ここで大人になっていくんだ)

 電車に揺られながら、
 春奈は窓の外を流れていく
 街の灯りを見つめた。
 そこに、
 あの玄関の光景を重ねないように
 しながらも――

 心のどこかで、
 「いつかちゃんと向き合う日が
  来るかもしれない」と、
 まだ名前のつかない感情が、
 小さく息を潜めているのを感じていた。
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