窓明かりの群れに揺れる
 翌日。
 夕方少し前、
 駅前で待ち合わせた恵は、
 浴衣姿で手を振っていた。

 「春奈!」

 「恵、かわいい。浴衣似合ってる」

 「でしょ。たまには地元感出さないとね。
  春奈もワンピース、
  東京っぽくていい感じじゃん」

 「地元で“東京っぽい”って言われるの、
  なんかこそばゆいんだけど」

 笑い合いながら、
 二人で夏祭りの会場へ向かう。

 川沿いの広場には、
 すでに屋台が並び始めていて、
 焼きそばやかき氷、
 たこ焼きの匂いが風に乗って漂っている。

 「懐かしいね、ここ」

 「中学のとき、みんなで来たよね。
 あの辺で写真撮ったの覚えてる」

 提灯が吊られた通りを歩きながら、
 昔のこと、最近のこと、仕事の愚痴――

 話は途切れない。

 「会社どう? だいぶ慣れてきた?」

 「うん……慣れた、かな。
 毎日目の前のことで精一杯だけど、
 “ちゃんと社会人やってる”って
 感じはしてきたかも」

 「偉い偉い。
  私はまだ、毎朝の満員電車に
  心折られてる」

 恵の愚痴に笑いながら、
 春奈は、自分のカバンの中にある社員証の
 ことを思い出した。
 (東京に、私の居場所が一つできたんだ)

 そう思えるだけでも、少し胸が軽くなる。
< 33 / 122 >

この作品をシェア

pagetop