窓明かりの群れに揺れる
 スーツの裾がふわりと揺れて、
 その動きごと、
 この部屋の空気に溶け込んでいくような
 気がする。

 「荷物を置いたら、リビングにおいで。
  今日くらいは、ゆっくり休んで、
  コーヒーでもいれるから」

 「はい。すぐ行きます」

 そう答えてスーツケースを
 ベッドの横に転がしながら、
 春奈はもう一度だけ窓の外を見た。

 知らない街の夜と、少しだけ空虚に見える部屋。

 その全部に、これからの数日間の自分が、
 少しずつ色をつけていくのだろう――
 そんな予感が、胸の奥で静かに灯り始めていた。
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