窓明かりの群れに揺れる
2.面接前夜
荷物を部屋に運び終えて、
スーツから普段着に着替えた春奈は、
少しだけ深呼吸をしてからリビングへ
向かった。
ドアをそっと開けると、
弘樹はキッチンカウンターのところで
グラスを片づけていた。
振り返ったその視線に、
春奈は思わず背筋を伸ばす。
「改めて……お世話になります」
ぺこりと頭を下げると、
弘樹は「やめてよ」と苦笑する。
「いいよ、そんなかしこまらなくて。
自分の部屋だと思って、好きに使ってね」
そう言ってから、少し声を落として、
ぽつりと付け足した。
「……どうせ、誰も使ってないし」
冗談めかしたような口調なのに、
その笑顔の奥に、
うっすらと影が差したように見えた。
(訳アリ、って……
やっぱり、離婚?)
母が電話口で言っていた言葉が、
胸の奥で静かに浮かんでは消える。
聞けば何か答えてくれるのかもしれない
けれど、今それを口にするのは、
どこか違う気がして――
春奈は、そっとその疑問を飲み込んだ。
「呼び方は……春奈さん、でいいかな?」
話題を変えるように、弘樹が言う。
「春奈でいいですよ!」
にっこりと笑って答えると、
弘樹が少しだけ目を丸くした。
「でも、急に呼び捨ては無理だなあ。
やっぱり“春奈さん”にしとくよ」
そう言って、
ふっと笑顔を取り戻す横顔を見て、
春奈の胸のざわつきが少しだけおさまる。
「お腹、空いてない?」
「あ、大丈夫です。
実は新幹線の中でお弁当食べちゃいました」
「そっか。
じゃあ、よかったら、お風呂でも、
移動の疲れもあるでしょ」
バスルームの場所や、タオルの収納場所、
給湯のスイッチの位置――
弘樹はいろいろと丁寧に
説明してくれるのに、春奈の頭には、
ところどころしか入ってこない。
スーツから普段着に着替えた春奈は、
少しだけ深呼吸をしてからリビングへ
向かった。
ドアをそっと開けると、
弘樹はキッチンカウンターのところで
グラスを片づけていた。
振り返ったその視線に、
春奈は思わず背筋を伸ばす。
「改めて……お世話になります」
ぺこりと頭を下げると、
弘樹は「やめてよ」と苦笑する。
「いいよ、そんなかしこまらなくて。
自分の部屋だと思って、好きに使ってね」
そう言ってから、少し声を落として、
ぽつりと付け足した。
「……どうせ、誰も使ってないし」
冗談めかしたような口調なのに、
その笑顔の奥に、
うっすらと影が差したように見えた。
(訳アリ、って……
やっぱり、離婚?)
母が電話口で言っていた言葉が、
胸の奥で静かに浮かんでは消える。
聞けば何か答えてくれるのかもしれない
けれど、今それを口にするのは、
どこか違う気がして――
春奈は、そっとその疑問を飲み込んだ。
「呼び方は……春奈さん、でいいかな?」
話題を変えるように、弘樹が言う。
「春奈でいいですよ!」
にっこりと笑って答えると、
弘樹が少しだけ目を丸くした。
「でも、急に呼び捨ては無理だなあ。
やっぱり“春奈さん”にしとくよ」
そう言って、
ふっと笑顔を取り戻す横顔を見て、
春奈の胸のざわつきが少しだけおさまる。
「お腹、空いてない?」
「あ、大丈夫です。
実は新幹線の中でお弁当食べちゃいました」
「そっか。
じゃあ、よかったら、お風呂でも、
移動の疲れもあるでしょ」
バスルームの場所や、タオルの収納場所、
給湯のスイッチの位置――
弘樹はいろいろと丁寧に
説明してくれるのに、春奈の頭には、
ところどころしか入ってこない。