窓明かりの群れに揺れる
第4章
19.湘南ドライブと淡いキス
その日も、仕事が終わるころには、
春奈の頭の中はほとんど空っぽになるくらい
疲れていた。
会議資料の修正、メールの下書き、
上司から飛んでくる指示。
新人一年目の平日は、
いつでも全力疾走だ。
パソコンをシャットダウンし、
「お先に失礼します」と軽く会釈して
フロアを出る。
自動ドアを抜けて、
ビルの外に出たところで――
「春奈」
名前を呼ばれて振り返ると、
エントランスの脇で達也が立っていた。
「おつかれ」
「あ……おつかれさまです」
あれ以来、達也にはどこか意識
してしまう
ほんの少しだけ胸がざわつくのを
感じながらも、
春奈はできるだけ平然を装った。
「今日も、だいぶ忙しそうだったね」
「はい……まだ慣れなくて。
でも、なんとかついていってる感じです」
「うん。
ちゃんと“仕事してる顔”になってるよ」
軽口に、少しだけ力が抜ける。
と、そのまま達也は、
意を決したように一歩近づいた。
「今度さ――」
言葉を区切って、
少しだけ真面目な表情になる。
「日曜日、時間空いてない?
もしよかったら、どこか出かけない?」
「え……?」
突然の「出かけない?」に、
頭の中が一瞬真っ白になる。
すぐに、恵の顔が浮かんだ。
金曜の居酒屋でのからかいと、
日曜カフェで聞いた、
直樹からの告白の話。
(……どうしよう)
達也は、いい人だ。
仕事の愚痴も聞いてくれて、
困っているときにはさりげなく
助けてくれる。
その「いい人」に対して、
自分がどういう気持ちなのか、
まだきちんと整理できていない。
もじもじと言葉を探していると、
達也が先に、空気を切るように笑った。
「いや、“重いデート”とかじゃなくてさ」
慌てて付け足すように続ける。
「ちょっと遠出して、
美味しいもの食べて、
海でも見ようぜってくらいのやつ。
ドライブがてら。気分転換になれば
いいなって」
「ど、ドライブ……?」
春奈の頭の中はほとんど空っぽになるくらい
疲れていた。
会議資料の修正、メールの下書き、
上司から飛んでくる指示。
新人一年目の平日は、
いつでも全力疾走だ。
パソコンをシャットダウンし、
「お先に失礼します」と軽く会釈して
フロアを出る。
自動ドアを抜けて、
ビルの外に出たところで――
「春奈」
名前を呼ばれて振り返ると、
エントランスの脇で達也が立っていた。
「おつかれ」
「あ……おつかれさまです」
あれ以来、達也にはどこか意識
してしまう
ほんの少しだけ胸がざわつくのを
感じながらも、
春奈はできるだけ平然を装った。
「今日も、だいぶ忙しそうだったね」
「はい……まだ慣れなくて。
でも、なんとかついていってる感じです」
「うん。
ちゃんと“仕事してる顔”になってるよ」
軽口に、少しだけ力が抜ける。
と、そのまま達也は、
意を決したように一歩近づいた。
「今度さ――」
言葉を区切って、
少しだけ真面目な表情になる。
「日曜日、時間空いてない?
もしよかったら、どこか出かけない?」
「え……?」
突然の「出かけない?」に、
頭の中が一瞬真っ白になる。
すぐに、恵の顔が浮かんだ。
金曜の居酒屋でのからかいと、
日曜カフェで聞いた、
直樹からの告白の話。
(……どうしよう)
達也は、いい人だ。
仕事の愚痴も聞いてくれて、
困っているときにはさりげなく
助けてくれる。
その「いい人」に対して、
自分がどういう気持ちなのか、
まだきちんと整理できていない。
もじもじと言葉を探していると、
達也が先に、空気を切るように笑った。
「いや、“重いデート”とかじゃなくてさ」
慌てて付け足すように続ける。
「ちょっと遠出して、
美味しいもの食べて、
海でも見ようぜってくらいのやつ。
ドライブがてら。気分転換になれば
いいなって」
「ど、ドライブ……?」