窓明かりの群れに揺れる
車を停めて向かったのは、水族館だった。
「ここ、有名なんですよね?」
「まあ、定番デートスポットだな」
「デートって……」
言われた瞬間、
耳のあたりがかっと熱くなる。
「嫌だった?」
「い、嫌とかじゃなくて……その、
そういうつもりじゃ……」
しどろもどろになる春奈を見て、
達也は慌てて手を振った。
「ごめん、ごめん。変な意味じゃなくて、
“場所として”ってだけ。
落ち着いて見て回れるし、
天気悪くても楽しめるからさ」
「……そういうことなら、
セーフにしておきます」
「セーフ判定ありがとうございます」
他愛もないやりとりをしながら、
チケットを買って館内へ入っていく。
外のまぶしい光とは対照的に、
ひんやりと暗かった。
大きな水槽の前で立ち止まり、
光の帯のように泳ぐ魚たちを、
言葉少なに眺める。
「きれい……」
「だな」
ガラスに反射した水面の揺らぎが、
二人の顔も淡く照らす。
ときどき人の流れができて、
背中同士が軽く触れそうな距離になるたび、
春奈の心臓は、
魚よりも落ち着きなく泳ぎ始める。
「ほら、クラゲコーナーあるぞ」
「行きたい!」
思わず、子どもみたいな声が出た。
薄暗い空間に浮かぶ、
半透明のクラゲたち。
ゆったりとした動きと、
ほのかな光に、
時間の感覚がゆっくりと溶けていく。
「なんか、全部どうでもよくなってくるな」
ぽつりと達也が言う。
「え?」
「いや、さ。
会議だの、役員だの、数字だのって
騒いでるの、
こいつらから見たらどうでもいい
話なんだろうなって」
「クラゲ目線……」
「クラゲ視点で見ると、
“あの人たち、
泡みたいなことでバタバタしてるね〜”
くらいにしか
見えないんじゃない?」
「やだ、それちょっとわかるかも」
二人で小さく笑う。
その笑い声が、
水の中に吸い込まれていくような
不思議な感覚に、
春奈の気持ちはさらに軽くなっていった。
「ここ、有名なんですよね?」
「まあ、定番デートスポットだな」
「デートって……」
言われた瞬間、
耳のあたりがかっと熱くなる。
「嫌だった?」
「い、嫌とかじゃなくて……その、
そういうつもりじゃ……」
しどろもどろになる春奈を見て、
達也は慌てて手を振った。
「ごめん、ごめん。変な意味じゃなくて、
“場所として”ってだけ。
落ち着いて見て回れるし、
天気悪くても楽しめるからさ」
「……そういうことなら、
セーフにしておきます」
「セーフ判定ありがとうございます」
他愛もないやりとりをしながら、
チケットを買って館内へ入っていく。
外のまぶしい光とは対照的に、
ひんやりと暗かった。
大きな水槽の前で立ち止まり、
光の帯のように泳ぐ魚たちを、
言葉少なに眺める。
「きれい……」
「だな」
ガラスに反射した水面の揺らぎが、
二人の顔も淡く照らす。
ときどき人の流れができて、
背中同士が軽く触れそうな距離になるたび、
春奈の心臓は、
魚よりも落ち着きなく泳ぎ始める。
「ほら、クラゲコーナーあるぞ」
「行きたい!」
思わず、子どもみたいな声が出た。
薄暗い空間に浮かぶ、
半透明のクラゲたち。
ゆったりとした動きと、
ほのかな光に、
時間の感覚がゆっくりと溶けていく。
「なんか、全部どうでもよくなってくるな」
ぽつりと達也が言う。
「え?」
「いや、さ。
会議だの、役員だの、数字だのって
騒いでるの、
こいつらから見たらどうでもいい
話なんだろうなって」
「クラゲ目線……」
「クラゲ視点で見ると、
“あの人たち、
泡みたいなことでバタバタしてるね〜”
くらいにしか
見えないんじゃない?」
「やだ、それちょっとわかるかも」
二人で小さく笑う。
その笑い声が、
水の中に吸い込まれていくような
不思議な感覚に、
春奈の気持ちはさらに軽くなっていった。