窓明かりの群れに揺れる
ちゃんと聞かなきゃって、思ってるのに……
なんか、遠くで音がするように、
頭がふわふわする。
疲れと、初めての東京と、
そして“弘樹くんと二人”という状況。
その全部が混ざり合って、
意識が少し現実から浮いているみたいだった。
「春奈ちゃん、……あっ」
弘樹が言葉を途中で止める。
「……春奈さん。大丈夫?
疲れてない?」
はっとして、春奈は瞬きをした。
「あ、大丈夫です!
すみません、ぼーっとしてて。
あの……“春奈ちゃん”でいいですよ?」
笑顔を作ってそう言うと、
弘樹は一瞬だけ目を細め、
それから少し照れくさそうに笑った。
「そう? じゃあ、遠慮なく。
“春奈ちゃん” お風呂、どうぞ。」
「はい。お借りしますね。
覗いちゃだめですよ!」
と笑顔を作ってみせた。
タオルとパジャマ代わりの
Tシャツを腕に抱えて、
春奈はバスルームへ向かった。
シャワーの音が、白い空間に反響する。
湯を張った浴槽に、
ゆっくりと身体を沈めると、
全身からふうっと力が抜けていくのが
わかった。
(明日、一次面接……)
志望動機、
自己PR、学生時代に頑張ったこと――
何度もノートに書き出して、
声に出して練習してきた台詞が、
頭の中でまた行ったり来たりし始める。
(ちゃんと言えるかな。
途中で詰まったりしないかな。
そもそも、私なんかで通るのかな……)
不安と期待がないまぜになった感情が、
胸の奥でゆっくり渦を巻く。
お湯の温度はちょうどいいのに、
心だけがなかなか温まりきらない。
(でも、ここに泊まれるのは、
正直ありがたいよね……)
たった数時間前まで、
東京の街のどこにも自分の居場所がないような
気がしていたのに。
今は、このマンションの一室に、
自分の荷物が置いてあって、
タオルが置かれたバスルームで湯船に
つかっている。
(弘樹くん……
すごく大人っぽくなってたな)
窓辺で見た横顔。
エントランスで笑った目じり。
「春奈さんでいいかな」と
少し照れたように言った声。
そのひとつひとつが、
湯気の中でゆっくりと浮かんでは、
また溶けていく。
(いとこ、なんだよね。
……いとこ、なんだけど)
胸の奥が、ほんの少しだけ甘く痛んだ。
不安と期待と、言葉にならない感情を、
湯船の中でそっと抱きしめながら――
春奈は、明日の自分に向けて、
静かに呼吸を整えていった。
なんか、遠くで音がするように、
頭がふわふわする。
疲れと、初めての東京と、
そして“弘樹くんと二人”という状況。
その全部が混ざり合って、
意識が少し現実から浮いているみたいだった。
「春奈ちゃん、……あっ」
弘樹が言葉を途中で止める。
「……春奈さん。大丈夫?
疲れてない?」
はっとして、春奈は瞬きをした。
「あ、大丈夫です!
すみません、ぼーっとしてて。
あの……“春奈ちゃん”でいいですよ?」
笑顔を作ってそう言うと、
弘樹は一瞬だけ目を細め、
それから少し照れくさそうに笑った。
「そう? じゃあ、遠慮なく。
“春奈ちゃん” お風呂、どうぞ。」
「はい。お借りしますね。
覗いちゃだめですよ!」
と笑顔を作ってみせた。
タオルとパジャマ代わりの
Tシャツを腕に抱えて、
春奈はバスルームへ向かった。
シャワーの音が、白い空間に反響する。
湯を張った浴槽に、
ゆっくりと身体を沈めると、
全身からふうっと力が抜けていくのが
わかった。
(明日、一次面接……)
志望動機、
自己PR、学生時代に頑張ったこと――
何度もノートに書き出して、
声に出して練習してきた台詞が、
頭の中でまた行ったり来たりし始める。
(ちゃんと言えるかな。
途中で詰まったりしないかな。
そもそも、私なんかで通るのかな……)
不安と期待がないまぜになった感情が、
胸の奥でゆっくり渦を巻く。
お湯の温度はちょうどいいのに、
心だけがなかなか温まりきらない。
(でも、ここに泊まれるのは、
正直ありがたいよね……)
たった数時間前まで、
東京の街のどこにも自分の居場所がないような
気がしていたのに。
今は、このマンションの一室に、
自分の荷物が置いてあって、
タオルが置かれたバスルームで湯船に
つかっている。
(弘樹くん……
すごく大人っぽくなってたな)
窓辺で見た横顔。
エントランスで笑った目じり。
「春奈さんでいいかな」と
少し照れたように言った声。
そのひとつひとつが、
湯気の中でゆっくりと浮かんでは、
また溶けていく。
(いとこ、なんだよね。
……いとこ、なんだけど)
胸の奥が、ほんの少しだけ甘く痛んだ。
不安と期待と、言葉にならない感情を、
湯船の中でそっと抱きしめながら――
春奈は、明日の自分に向けて、
静かに呼吸を整えていった。