窓明かりの群れに揺れる
そこへ、
廊下のほうから
看護師に呼ばれた母が戻ってくる。
「ごめんね、待たせちゃって。
弘樹くん、本当にわざわざありがとう。
お父さんも、
あなたが来てくれたの喜ぶわ」
「いえ、当然のことですから」
弘樹は立ち上がり、
母に向かって丁寧に頭を下げた。
「じゃあ、俺はそろそろ失礼します。
また、何かあったら連絡ください」
「ええ、ありがとう。
気をつけてね」
母と短く言葉を交わしたあと、
弘樹は一瞬だけ、春奈のほうを見た。
何かを
言いかけたようにも見えたけれど――
結局、その言葉は形にならなかった。
「じゃあ」
それだけ残して、
ゆっくりとロビーを歩き、出口へ向かう。
ガラスの自動ドアが開き、
外の光が差し込んだ。
背中が、その光の中に小さくなっていき、
やがて完全に見えなくなる。
残されたロビーには、
テレビの音と、人の話し声と、
消毒液の匂いだけが漂っていた。
(……言っちゃった)
「同僚と付き合ってる」という言葉。
口にした瞬間、
自分の中の何かが、
確かに切り替わったような気がする。
嬉しさと戸惑いと、
どうしようもない寂しさが、
混ざり合って胸の奥で渦を巻く。
「春奈?」
母の声に振り向くと、
心配そうな顔があった。
「大丈夫?」
「……うん。
ちょっと、外の空気吸ってくるね」
そう答えて、
自動ドアとは反対側の小さな中庭に出る。
夏の終わりの風が、
少しだけ冷たく頬を撫でた。
さっきまでそこにいた背中を
思い出しながら、
春奈は、自分の胸に手を当てた。
東京での生活。
会社の同期。
いとこの存在。
その全部が、
ひとつの心の中で、
どうにか居場所を探し合っている。
廊下のほうから
看護師に呼ばれた母が戻ってくる。
「ごめんね、待たせちゃって。
弘樹くん、本当にわざわざありがとう。
お父さんも、
あなたが来てくれたの喜ぶわ」
「いえ、当然のことですから」
弘樹は立ち上がり、
母に向かって丁寧に頭を下げた。
「じゃあ、俺はそろそろ失礼します。
また、何かあったら連絡ください」
「ええ、ありがとう。
気をつけてね」
母と短く言葉を交わしたあと、
弘樹は一瞬だけ、春奈のほうを見た。
何かを
言いかけたようにも見えたけれど――
結局、その言葉は形にならなかった。
「じゃあ」
それだけ残して、
ゆっくりとロビーを歩き、出口へ向かう。
ガラスの自動ドアが開き、
外の光が差し込んだ。
背中が、その光の中に小さくなっていき、
やがて完全に見えなくなる。
残されたロビーには、
テレビの音と、人の話し声と、
消毒液の匂いだけが漂っていた。
(……言っちゃった)
「同僚と付き合ってる」という言葉。
口にした瞬間、
自分の中の何かが、
確かに切り替わったような気がする。
嬉しさと戸惑いと、
どうしようもない寂しさが、
混ざり合って胸の奥で渦を巻く。
「春奈?」
母の声に振り向くと、
心配そうな顔があった。
「大丈夫?」
「……うん。
ちょっと、外の空気吸ってくるね」
そう答えて、
自動ドアとは反対側の小さな中庭に出る。
夏の終わりの風が、
少しだけ冷たく頬を撫でた。
さっきまでそこにいた背中を
思い出しながら、
春奈は、自分の胸に手を当てた。
東京での生活。
会社の同期。
いとこの存在。
その全部が、
ひとつの心の中で、
どうにか居場所を探し合っている。