窓明かりの群れに揺れる
 何度も準備したはずなのに、
 「これで足りるのか」という不安は消えない。
 (私なんかで、本当に通るのかな……)
 
 部屋に戻り、身支度をしていると……
 コンコン、とドアがノックされた。

 「春奈ちゃん、起きてる?」

 「うん」

 ドアが少し開いて、
 弘樹が顔をのぞかせる。
 手にはマグカップをふたつ。

 「侵入していい?」

 「ど・う・ぞ」

 「ハーブティー。寝る前に飲むと、
  ちょっと落ち着くかと思って」

 「あ、ありがとう……」

 湯気と一緒に、
 やさしい香りがふわりと広がる。

 「面接前の夜は、寝られなくて当然だよ。
  俺も、新卒のとき全然寝てないし」

 「弘樹くんでも、緊張したの?」

 「当たり前。
  いまだに思い出すくらいには、
  ひどかった」

 冗談めかした調子なのに、
 その声には妙な説得力があった。

 「さっき、リビングに置いてあったノート
  ちょっと見たけどさ。
  ちゃんと考えてるじゃん。
  “なんでその会社がいいのか”とか、
  “そこで何をしたいのか”とか。
  あれだけ整理できてれば十分だよ」

 「でも、他の人たちは
  もっとすごいことしてるんじゃないかって
  留学してたり、インターン行ってたり」

 「うん、そういう人もいるだろうね。
  でも面接官が知りたいのは、
  “すごい経歴”より、
  “どんな考え方してる人か”のほうなんだよ」

 弘樹は、春奈をまっすぐ見て言う。

 「明日本当に大事なのは、
  “完璧に答えること”じゃなくて、
  “春奈ちゃんがどんな人かちゃんと
  伝えること”。
  多少詰まってもいいから、
  自分のペースで話せばいい」

 「……自分のペース、かあ」

 「そう。困ったら
  “一回考えてもいいですか”って言って、
  間を取るのもアリだしな」

 ハーブティーをひと口飲むと、
 少しだけ喉の奥のこわばりがほどける
 気がした。

 「なんか、ちょっと楽になってきた」

 「よし。じゃあ、あとは寝るだけだ。
  明日はちゃんと朝ごはん食べろよ。
  時間に余裕持って出るのが、
  一番の“お守り”だから」

 「……うん。ありがとう」

 立ち上がった弘樹は、
 ドアノブに手をかけかけて、
 ふと振り返った。

 ベッドの端に腰を下ろしたまま、
 無理に元気そうな笑顔を作っている
 春奈の顔が、視界に入る。

 (緊張してるよな……気付けないと)

 自分にそう言い聞かせるように、
 ひとつ小さく息を整える。
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