窓明かりの群れに揺れる
 そのころ。
 別のフロアでは。

 達也が、書類をバッグに放り込む
 ようにして片付けていた。
 (……やってらんねえ)

 喉の奥に、悔しさだけがこびりついている。

 A案にこだわった自分。

 穴を突かれた会議。

 そして、最終的にB案が通った事実。

 そこへ、控えめな声が背中から飛んできた。

 「達也、おつかれ」

 振り向くと、恵が立っていた。

 「ああ……おつかれ」

 返事はしたものの、
 表情までは整えられない。

 「今日、大変だったね」

 「まあな」

 短い言葉で切り捨てたつもりでも、
 感情は隠しきれていない。

 恵は一度だけ迷うように視線を泳がせてから、
 思い切ったように言った。

 「ねえ。よかったら、
  このあと飲みに行かない?」

 「今日、か?」

 「うん。
  “慰め会”ってことで。
  愚痴でも何でも、
  聞くだけならできるから」

 「……そういう気分でも、
  ないんだけどな」

 「知ってる。
  でも、だからこそ」

 恵は、少しだけ真顔になる。
 
 「そのまま一人で帰ったら、
  きっと、今日の会議のこと
  ずっと考えちゃうでしょ。
  たぶん、寝るまでずっと」

 図星だった。
 達也は、力なく笑った。

 「……一杯だけな」

 「うん。一杯“から”ね」

 「からって言うなよ」

 そう突っ込みながらも、
 ほんの少しだけ、
 胸の中の重さが軽くなった気がした。
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