窓明かりの群れに揺れる
　チェックインを済ませ、
　部屋のドアを閉めるまでで、
　恵はすでにぐったりしていた。

　「ほら、こっち」

　肩を貸しながら、
　達也をなんとかベッドまで連れて行く。

　靴を脱がせ、
　ネクタイを緩め、
　上着だけハンガーに掛けた。
　
　「……ほんっと、よく飲むよね」

　「……悪ぃ」

　達也の声は、
　完全に熱を抜かれたように低い。

　「悪いと思うなら、
　　次からはちゃんと加減しなよ」

　恵はそう言いつつ、
　自分のジャケットも脱いで、
　ソファ代わりにベッドの端に腰を下ろした。

　時計を見れば、
　もう日付が変わる頃。
　明日は、普通に会社だ。

　（最悪……）

　そう思いながらも、
　「放って帰る」という選択肢は
　どうしても取れなかった。

　大きすぎるベッドの端に腰を下ろし、
　恵は、
　クッションを背もたれ代わりにしながら、
　ぼんやりと天井の照明を見上げていた。

　さっきまで、
　達也の愚痴はほとんど八つ当たりだった。

　プロジェクトのこと、上司のこと、
　そして結局は、自分自身への苛立ち。

　（最悪だよ、ほんと……）

　わざわざ慰めに連れ出したのに、
　ぶつけられるのは、
　混乱と苛立ちばかり。

　胸の奥に、
　少しだけ嫌悪感に似たものが浮かぶ。

　（それでも、放っておけないとか……
　　私も相当バカだな）

　そう自嘲しながら、
　ふらつく彼の肩を支えようとして
　手を伸ばした。

　思った以上に、その体は重くて熱い。

　バランスを崩した達也が、
　半ば倒れ込むみたいに
　恵のほうに寄りかかってくる。
　
　「ちょっと……」

　抗議の言葉は口に出るのに、
　押し返す力はどこかで弱まっていた。
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